NoName

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 おばあちゃんは、森の奥には魔女が住んでるって言ってた。だから、近寄っちゃいけないって。でも、わたし思うの。魔女さんって、悪い人じゃないんじゃないかって。
「〜〜♪」
 今日も、異国の言葉で歌ってる。この歌声はきっと、魔女さんのものだ。こんな綺麗な声を紡げる人が、悪い人なわけがない。
 勇気を出して、一歩踏み出した。声の方へ、一歩一歩。進んだら、誘われるように、勝手に足が動く。踊るように、1、2、3、1、2、3、って。
 もう、耳元で聴こえるように近い。ガサガサっと、茂みをかき分けた。
 そこには、わたしと同じくらいの歳の女の子がいた。空に向かって、歌っていた。歌を聴いているとドキドキする。まるで遥か昔から、この歌を知っているかのような。
「だれ?」
「!」
 女の子が急にこちらを向いた。わたしは肩をびくつかせるだけで、身を隠すことはできなかった。
 そして、彼女は、ある名前を呼んだ。
「×××?」
 その名前には聞き覚えがあった。そしてすぐ、わたしと魔女さんは仲良くなった。
 今度、おばあちゃんも連れてこよう。魔女さんは、おばあちゃんが生きていることを知ったら、どんなに喜ぶだろう。おばあちゃんも、魔女さんが自分への愛を歌い続けていると知ったら、きっと仲直りのハグをすることでしょう。

10/26/2024, 9:19:14 PM