12歳の叫び

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お題〈失われた時間〉

今書いている小説を、削りに削って描きました!


私には、約70年間の失われた時間が存在する。確かね、こんな夢だったかな――。
私がまだ、15歳の時だった。
初めての高校生活。周りの女の子はみーんな可愛くってね。それに比べて、私はデブで、ブスで、性格も悪い。
到底もてることなんてなかった。
でも、そんな私でも、好きな人だってできるじゃない?
その人の名前は…確か、宮本海だった気がする。
スポーツ万能で、イケメン。だけど頭は悪い人で、こんなブスにも、優しく接してくれるような人だった。
まあ、あまり前だよね。その人には恋人がいたの。
顔は上の上。性格もいいし、スポーツも勉強も出来て、これぞ理想の人物って感じがしたよ。
だから、なんでこの女が?だなんて、思いもしなかったの。だって、そりゃ恋人になれる人だなって思ったんだもの。
でも、私は諦められなかった。
だって、初めての初恋の人だった。私に優しくしてくれる人だった。私を可愛いって言ってくれる人だった。どんな時でも私に寄り添ってくれる人だった。それに、それに!
あーあ、言いたいことが溢れでちゃうよ――。
あの人の恋人になりたい。その一心で、私は可愛くなろうと努力をすることにした。
丁度、明日から三連休だし、3日で可愛くなれるよね?
3日で可愛くなって、みんなにチヤホヤされる!それでめでたしめでたしじゃないの!
あー!なんで、早く始めなかったんだろ。
こうして、軽い気持ちで、可愛くなろうと浮き足をとっていた私を、天から地に突き落とすように私は、部屋すら出れなくなる――。
だって!可愛くならないんだもの!3日、おかわり無し、ジュース、アイス、お菓子という食生活をしていたのに、痩せないし、マッサージを、部活で疲れた日でもちゃんと欠かさずした。なのに!なのに!
1ミリも変わらないじゃないの。なんでなの?私、ずーっと簡単に幸せになれると思って過ごしてきた。
これが間違いだと言いたいの…?あーもう!わかんないよ――。
「お困りのようだね」
ベッドの上で横たわっていると、窓の縁に、黒い鴉が泊まっていた。
「鴉…?てか、言葉喋れるの?」
鴉が言葉を発する。その事実に驚きを隠せなかった。
「お前、生まれ変わりたいか?可愛い可愛い女子に」
「は?いきなり来てどういうこと?てか、遠回しに私の事ブスって言ってるようなものじゃん」
そう言っても、鴉は『生まれ変わりたいか?』そう聞くだけだ。
「…まあ、生まれ変われるならなりたいよ」
「この薬。飲むと、何度でも可愛いおなごに生まれ変われる。何度でもだ。お前が死なない限り、終わることは無い」
そんな怪しくて、甘い話。あるわけが無いだろう。
でもね、私は可愛くなりたい。その一心で、薬を簡単に口に含んだ――。
そしたら、本当に何度でも生まれ変われた。
1度目は、どこかの星の姫で、可愛い女の子だった。けれど、星の民族に妬まれて窓に石を投げられるばかり。
私は、また生まれ変わった。
2度目は、妖精だった。私を愛してくれる彼ができた。それでも、巨人から逃げ回る日々。疲れたんだもの。直ぐに生まれ変わったよ。
こうして、何十回。何百回と生まれ変わった。そんな私にやっと、あう世界が映し出された――。
それは、ただの田舎の高校。顔も可愛くって、みんなからモテた。そんな私が好きになった彼の名前は………。あれ、なんで。思い出せないや。でも、どういう人だったのかは覚えてるの。
クラスは違うからどんな立ち位置にいるかまでは分からないんだけど、優しくて、私を褒めて、慰めてくれる。そんな人だった――。
そしてやっと、高校も卒業 、でも、私が屋上に行くと、彼は何故か、フェンスの外側にいた。
「…くん?何してるの。そんなところに居たら落ちちゃうよ」
私がそう、声をかけても、何も答えずずっと、何メートルも先にある地面を見つめるだけだった。私には、笑っているように見えていた。
「…ねえ、聞いてる?ふざけてるなら、もうやめて。私怒ってるよ?」
危ない状況にいる彼を放っておく彼女がいるものですか!私は、彼の隣に行こうと、フェンスを登り、彼と同じく、フェンスの外側に行く。
すると、ずっと下を見ているだけだった彼は、私の手を引いた。
「…なんで!」
「お前は、選択を間違えたんだ」
何故か、私の彼が、あの時の鴉に見えた――。
屋上から落下していく。
とても早いスピードなのだろうに、ゆっくりと落ちる感覚がする。彼の表情を読もうと、目を開こうとしたが、私は、気を失っていた――。
目が覚めると、私の父と兄の映像が映し出された。
兄は、私の大嫌いな人だった。だって、会う度にブスと吐いてくる。そんな人だった。そんな人がアイドルだなんて笑っちゃうよね。
「お前…雪をそれ以上貶すのはやめろ!雪を見るといつか倒れてしまいそうで心配になる」
「…だって、雪がこれ以上、可愛くなっていくのが嫌なんだよ!だから俺のストレスでお菓子ばっかり食べて太っちゃえばいいのに!って…」
「…はあ。妹が好きなのはわかった。でも、いつか雪もお前と離れる。きっと雪はお前が嫌いだよ」
…どういうこと?本心でブスと言っていたわけじゃないの…?
なによそれ、私、可愛かった…?
いいや違う!妹フィルターがかかってるだけだもん。
「雪ってさー?正味まじ可愛くない?」
「やめろよ…。でも、本当のこと言うと、雪に似てるから今の彼女と付き合ったんだよね」
「はあ?なんで。雪と付き合えばいいじゃんか」
「だって、雪って色々抱え込んでるから、俺が支えてやれるか心配なんだよ…あーもう!何言わすんだよ!」
次に出てきたのは、大好きだった…くん。ごめんね、最後まで名前。思い出せない――。
あーでも、私、愛されてたんだ。
私、どこから間違えてたの?
私、どうしたらいいの?
私、死んじゃったよ。
私、みんなともう会えないよ。
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!

…あとから知ったの。あの薬を飲んだ時点で私、死んでたみたい。
生まれ変わるのは、夢が切り替わるだけで、私。ずっと寝ていたんだよ。
そして、生きてたら本来、80歳だったみたいなんだ。
こんなおばさん。価値ないよね。ブスだもん。
もし生まれ変われるのなら、櫻井雪として。生まれたいなあ。
うーんでもね、なんで今、こうやって、夢を伝えられているかは分からないんだ。

5/13/2024, 10:55:29 AM