こし

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「ずっとこのまま一緒にいたい、だって!照れちゃうよね」
隣に座った妹がドラマを見ながらそんなことを言う。
今まさに、主演の男が女の子に思いを伝える見せ場が放映されている。
この2人はすれ違いを経てこの場面にいきついたらしい。
抱きしめあって、もう離れたくないんだ、なんて。

ずっとこのまま一緒にいたい
こんなに不明瞭な言葉が告白でいいのか。
ずっとって何年?もしかして死ぬまで?
このままって状態が変わらないこと?抱きしめあったままってこと?
一緒にいるって具体的に何?結婚?3組に1組が離婚を選択する制度に重きを置きすぎじゃない?
明日どちらかが死ぬかもしれないのに。

もちろんこんな言葉は楽しそうにドラマを見ている妹には伝えない。
久しぶりに帰国して、最初は俺を特別扱いしてたのに、2日も経てば俺がいることが日常になり、洗面所の取り合いをしたかと思えば、
「一緒にドラマ見よ〜、感想言い合いたいの〜」
なんて可愛い提案をしてきた妹の気分を損ねたくなんかない。
「こんな風に言葉にしてくれるのっていいよね。言われるのってどんな気持ちなんだろ」
無邪気な妹が俺には眩しい。
でも、お前も知ってるはずだろ?死は案外身近にあるものだって。
〝このまま〟なんて。
変わらない日常なんてなくて、変化は突然やってくるものだって。
だから、俺は未来の約束はしたくない。希望を込めた思いほど、簡単に言葉にするのは恐い。
同じ悲痛を味わったはずなのに妹はどうして未来の約束を好意的に捉えられるのか。

「お前は前向きだよな」
しまった。もっと明るく言うはずだったのに、妬ましげな声音になってしまった。
ちらりと妹を見ると、にんまりと笑ってこちらを見ている。
「お兄ちゃんは可愛いなー。私だって変わらないものがあるなんて、思ってないよ。」
今度はどこか得意げに言う。
相変わらず表情が豊かだ。
「可愛いって。それはお前だろ。楽しそうにドラマ見てて、そんなふうに見てもらえたらドラマつくった人も喜ぶだろうよ。」
なんとなく、自分が考えていたことを悟られたような気がしてあえてずれた回答をしてみる。
「わかってるよ。ずっとこのままがいきなり終わることがあるって。どうしようもないことってあるもんね。
でも、それでもため込んだ思いが溢れて言葉にするしかない、伝えたいってのがステキなんじゃん!」
驚いた。
俺が考えていたようなことを妹も考えつつも、そんなところへ着地するなんて。
「お前は本当にすごいな。思いが溢れるっていい言葉だな」
「そうだよー。言葉にするのって恐いときもあるけど、やっぱり言わなきゃ伝わらないもんね。だから言うよ、お兄ちゃんとドラマ見れて私は嬉しいよ」
楽しそうに可愛い妹が言ってくる。
こんな言葉なら、いくらだって言ってもらいたい。
俺にも言葉で相手を嬉しい気持ちにさせることができるだろうか。
手始めにお前は俺にとってずっと変わらず可愛い妹だと伝えてみようか。

1/13/2024, 3:27:33 AM