「みなさん、良いお年を」
今日は年納め。会社の上司はそういって定時で帰っていった。仕事初めまで何をしよう?なにも考えてなかった。今年は珍しく年末年始は家で過ごせそうだ。
仕事を終え、家に着いたのは21時。
「あ、あそこにいってみよう」
ふと気になっていたおでん屋さんを思い出した。佇まいは今にも倒れそうな戸建てのお店。静かに揺れるのれん。ひとりで入っても問題ないかな。不安よりも好奇心が勝った。
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」
人の良さそうな女将さん。客はまばらにおでんとお酒を嗜んでいた。団体できている人、ひとりできている人、客層もそれぞれ。ひとりでいても問題なさそう。カウンター席に座る。
「なににしますか?今日はトマトがおすすめです」
女将さんは優しく声をかけてくれた。
「じゃあ、トマトください。それと大根とたまごとちくわぶ」
「はい。なにかお飲みになりますか?」
「お湯割りを」
「はい。かしこまりました」
おでんのいい香り。お腹が空く。
「お待ちどうさまでした」
ほんのり色のついた具材が食欲をそそる。こんな感覚前にもあったような。
女将さんは気建てのよい方でいろいろ話しかけてくれた。とても居心地いい。
ふいに思い出した。実家にいた頃は毎年家族みんなでこたつに入ってご飯を食べていたんだっけ。ひとりでの食事になれてしまったのはいつからだろう。食事のときに誰かと何の変哲もない話題ができるありがたみに心まであたたまる。
すっかり心もお腹も満たされた。
「冬になったら結婚しよう」
あの頃が懐かしい。忘れていたのになぜか思い出した。幸せな日々だったな。別れてからこんなに満ち足りたことはなかった。懐かしいと思える私にも驚いた。毎年冬になったら思い出し塞ぎ込んでいた自分が嫌で忘れようとしていた。今日はそんな自分も幸せな時間を過ごしていた自分もなんなく腑に落ちていった。帰り道、軽くスキップしている自分がいる。私も単純だったんだな。
おでん屋さんに通うようになって何年経つだろう。通い始めてからの冬はなんだか嬉しい。長い夏が終わり短い秋が終わろうとしている。冬になったらなにしよう。今日もスキップしている私がいる。
11/17/2023, 2:52:44 PM