わたあめ。

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「ごめんなさい!!」


そう言って目の前の女性は深く頭を下げる。

俺は今、しばらく思いを寄せていた相手に告白した。そして返ってきた言葉が先程の六文字だったのだ。

「あなたの事はとても良い人だとは思うけど、友達以上には見れないというか……」

聞きなれたセリフ、見慣れた困り顔。
正直、告白した相手全員に言われている気がする。

だから、こう言われた後の対処も慣れているのだ。

『そっか、ごめんね、急にこんな事言って。難しいかもしれないけど、今まで通り 友達 として接してくれたら嬉しいな。』

「!……もちろんだよ!!」

相手の顔が曇り顔から、花が咲いたように笑顔に戻る。

きっと、断ったは良いもののこれから先どう接しようか悩んでいたのだろう。
そこで俺が助け舟を出したものだから、ホッと安堵したように笑っている。

正直まだ諦めきれていないし、彼女への気持ちは誰にだって負けない自信しかない。
触れたいし愛でていたい。

だが、彼女を困らせてまで自分の欲望を叶えるほど暴君にはなりきれないので、そっと胸にしまう。


『じゃあまた明日。』

「うん。バイバイ。」

手を振って彼女といた教室を後にし、いつも通り廊下を歩いて昇降口に向かう。

普段と変わらないはずなのに、とっても長く感じる。
しかも足どりも重くなってきた。

別に失恋なんて、初めての経験じゃない。
なんなら叶った事なんて一度も無い。


それなのに、痛みが無くならないのは何故なのだろう。


何度経験してもこの苦しさだけはどうしても慣れない。

それだけ相手を想っていたということなのだろうけど、こんなに想っても叶わないのなら、一体どれだけの気持ちを相手に捧げれば叶うのか。

負の感情ばかりがぐるぐると頭の中でかき混ぜられる。

『恋愛……向いてねぇな……』

とうとう歩けなくなってへたり込む。

蹲りながら、先程の彼女のホッとした表情が頭に浮かんでは消えていく。

こんなに苦しむのなら、恋愛なんてしたくないと思うのに、こうして誰かを想う事を止められない。

苦しい、寂しい。
そんな感情に支配されていく恐怖。

もしかしたら、これらの感情から救われたくて、俺は恋をするのかもしれない。

仲良くなって、自分をさらけ出せて、安心出来るようになって、その場所を誰かに取られたくなくて、告白をする。その繰り返し。

そう思うと俺の告白という行為は、とても身勝手に思えてきた。

自分に矛先を向け、さらに落ち込み始めたその瞬間、


「大丈夫ですか?」

優しく高い声が聞こえる。
声の方を向くと、女性が心配そうにこちらを見ていた。
よっぽど絶望に打ちひしがれていたのだろうか、近寄られていたのに俺は全く気づかなかったようだ。

『え、あぁ、だい、じょうぶ。』

そう言いながら一筋の涙が顔に伝っていた。

「良かったらこれどうぞ。」

女性はハンカチを俺に差し出す。

おずおずと受け取ると、女性はニコッと微笑んだ。

メガネをかけていて、とても知的の見える女性。
髪は後ろに束ねられていて、服装も落ち着いているが、清潔感がある。
表情は柔らかくて、見た目からも優しい雰囲気を感じた。

(ああ……この人なら、きっと……)


こうして俺は、n回目の恋に落ちた。

#失恋

6/4/2024, 6:09:25 AM