青く深く
浸かった海は冷たくて、ほんの少し生臭い。
遠くには透明なほどに白い月がぽおんと浮かんでいる。
ムーンロードの上に俺は居る。
何度も何度も波に押し返されながら進んでいく。
それがどうにも心地が良くて、俺は歌ったり回ったりを繰り返した。
伸ばした髪が漂って、絡みついて、なおさら気分が良かった。
腰辺りなんてとっくに過ぎるほど、
もうすぐで海に沈む頃に、後ろにいた少女が俺に声をかけた。
「どうしてここなの」
「どうしてここに沈むのよ」
今まで問いかけられたそれにはどうしても答えられなかった。
自分の中でも答えが出なかったから。
彼女と初めて会ったのは、彼女の母の葬式。
俺が殺したようなものだった。
海に傾倒した俺に傾倒した人。
あろうことか己の娘をほっぽりだし海に沈んでしまった。
そうすれば俺が振り向くと思っていたのかもしれない。
はっきりと言葉で伝えて、打ちのめしてやればよかったと何度も後悔した。
その娘は今、何を考えているのだろう。
母を殺したような男が、母の沈んだ海に身を投げる。
さぞ奇怪だろう、異様だろうと同情する。
なんにもしてやれない。俺にその資格はない。
こうなる前に、彼女の母にしてやれなかった事を
してやるべきだった。
思い切り言葉で打ちのめして、
叩き折って圧し切ってやればよかった。
青く深く、声も響かぬ底につく前に、ようやく問の答えが分かった。
ただのひとかけらでも、もう遅くとも、
こんなことに付き合わせた贖いを、母を奪った罪を償うべきだ。
ただ一言お節介な言葉を放つ。
唖然としたような少女の背に伸びるムーンロード。
それを最後に俺は沈んだ。
6/29/2025, 11:16:42 AM