浅井

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お題「窓越しに見えるのは」

 狐の形にした両手を組んで、窓をつくる。昔、手遊びのひとつとして覚えたものだ。人体には些か無理な組み方をするので、指とか手首の筋とか、色々なところが引き攣れて結構痛い。いや、僕の身体が固いだけかもしれないけど。
 狐の窓。両手で作ったこの窓を通して見れば、妖怪とかお化けとか、そういうものが見えるとか言うオカルトの類いの遊びだ。傾倒はしてないけど、知識としては面白いものだなと思っている。
 あと、ちょっとかっこいい。覚えた時分は中学生とかそんなものだったので、まぁ、そういう年頃だったのだろう。
 昔の自分を思い出してちょっと恥ずかしくなって、組んだ手をほどこうとすると。ひょいっと君がこちらを覗き込んできた。

「なにそれかっこいい」

 目を輝かせて口角が上がっている、ちょっとわくわくした君が窓越しに見えた。それどうやるのと僕に問い、見比べながら、めちゃくちゃに自分の指を絡めたり、手を組んだりしている。
 僕はというと、遊びが遊びだったので、いきなり目に飛び込んできた彼女の姿にびっくりして硬直していた。心臓に良くない。
 でも、窓を通して見た彼女は当然といえば当然なんだけど、あまりにもいつも通りだったので、ちょっと安心したりもした。
 
「出来ない」

 しばらく悪戦苦闘していた君が、悔しそうに呻く。あぁ本当に、いつも通り過ぎて、気が抜ける。気が抜けて変な笑いが込み上げるがままに笑っていると、自分が笑われたかと勘違いした彼女が、むっと唇を突き出しながら「教えてってば」とにじりよってくる。教えても良いけれど、

「お化けが見える遊びだよ」

 と言うと、とたん毛を逆立てて威嚇する猫みたいになった君が、

「どうして!そんな!!怖いことを!!」

 そう叫びながら、組んでいた僕の指を無理矢理ほどいた。

7/1/2024, 10:40:43 AM