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【過ぎ去った日々】

「こんなのダメだよ」
「ははっ、いいから乗れって」

自転車に跨った君が
真面目な私に向かって笑う
きょろきょろと辺りを見回し
誰も見ていないのを確認してから
そっと君の後ろに乗る

気持ちいいくらいの青い空
大きな入道雲
田んぼの横を走る、二人を乗せた自転車
心地良い風は控えめに頬を撫でていく

「気持ちいいだろ」

君が前を向いたまま話しかけてくる

「うん」

君と二人だけの秘密の時間が嬉しくて
はじめに抱いていた罪悪感はいくらか薄れていった
たまにはちょっといけないことをするのもいい
……そう、たまには

「来年もまた、こうやって二人乗りしようぜ」
「何言ってんの。今日だけだよ」
「なんで?」
「誰かに見られたらどうすんの」
「相変わらず真面目だなあ」

私より少し不真面目で
私よりずっと明るくて頼りになる君の背中に
そっと頭を寄せると
陽だまりの匂いがした

あれは今から十年も前の話だ
ふとした瞬間に
君との懐かしく美しい思い出が
ふっと現れて
今の私を時に励まし
時に哀しくさせ
時に笑顔にさせる
とうに過ぎ去ったはずの日々は
いつまでも心の中に残っている

3/9/2024, 10:26:53 AM