ストック

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Theme:好きじゃないのに

彼のことは好きじゃない。嫌いだと言った方が正確かもしれない。
野心家で高慢で、言動が一々鼻につく。自信過剰が服を着て歩いているようだ。
束の間の休憩時間には、私は彼が視界に入らない場所へ行く。
コーヒーを飲むときまでイライラしたくはないからだ。

今日の休憩も、私はコーヒーを持って席を立つ。
何人かが談笑している休憩スペースから少し離れたところでコーヒーを飲んでいると、彼の名前が聞こえてきて思わず耳をそばだてた。
話の内容は、彼の実力を賞賛するものだった。
私はコーヒーを一気に飲み干すと、その場を離れた。

本当は分かっている。
私は彼が好きじゃないのではない。彼が妬ましいのだ。
彼はただ大言壮語を吐いているのではない。言葉に相応しいだけの実力を持っている。
私がどれだけ努力したところで、彼は軽々と私を追い越していく。
それが悔しくて、嫉妬を抱える自分を認めたくなくて、私は彼を嫌うことにした。そうやって自分のちっぽけなプライドを守っている。

意地を張っているのがなんだか馬鹿馬鹿しくなってしまう。
私は席に戻ることにした。
ふと思い立って自販機でカフェオレを買う。
タイミングよく現れた彼に、お疲れ様とカフェオレの缶を放る。彼は突然のことに驚いたのか缶を取り落としてしまう。
転がって行く缶を慌てて追いかける彼の背に小さく笑って、私は席に戻っていった。

3/25/2024, 12:31:49 PM