いろ

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【子猫】

 インターホンに呼び出されて玄関のドアを開ければ、土砂降りの雨の中に立ち尽くす君の腕の中に、一匹の子猫が横たわっていた。
「どうしたの、それ」
「っ……道路に、倒れてて……」
 雨音にかき消されそうなほどに掠れた声。よく見れば君の頬は腫れていて、唇の端に血が滲んでいる。どうやらまた理不尽な暴力に晒されたらしい。それなのに自分の傷には構うことなく、君は腕に抱いた子猫の身を案じていた。
 ……もう、死んでいる。一瞥しただけでそれはわかったし、たぶん君だって理解してはいるのだろう。それでも私を頼ってきた君のその必死さが、いじらしくてたまらなかった。
「入って。手当てするから」
 おままごとのように死んだ猫の傷に包帯を巻いて、君が満足したら亡骸は地面に埋めてやろう。
(良かったね、優しい人に見つけてもらえて)
 私が死んでも、君は同じように悼んでくれるだろうか。或いは君が死んだ時、こんな風に君の死を本気で悼んでくれる人はこの世界にいるのだろうか。そんな馬鹿げたことを考えながら、私は君の腕の中に眠る幸福な子猫の冷たい頭を撫でた。

11/15/2023, 9:54:50 PM