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#2 セーター


お気に入りのお店のシュトーレン。
大人気のクリスマスケーキは予約済み。
クリスマスツリー柄のタペストリーもセットして、インテリアにもさり気なく赤と緑を追加した。
当日のご馳走は、デパ地下で予約したローストチキンと、お惣菜と、腕によりをかけたクリームシチュー!
いつもはイベントをスルーする私だけれど、一緒に過ごす人がいるなら話は変わる。
あれをしようこれようしようと準備するのは楽しくて、気付けばもうクリスマスは眼の前。
何ならヘアスタイルだってふわふわウェーブにしてみた。
あとは、クリスマスプレゼントを用意するだけ!
………するだけ、なのだけれど。

スマホに映るお急ぎ便画面を見つめながら、私は重いため息を吐いた。これをタップすれば、注文は完了して、商品は明日には届く。タップさえすれば、簡単に。

「あ〜〜〜」

ぼふん、とクリスマスのために白カバーに変えたソファに倒れ込む。
クリスマスと言えばダサセーターでしょ! なんて、安易に考えた自分は何て浅はかだったんだろう。ローテーブルに投げ出した濃紺の塊は、完成品には程遠い。ころころと、床の上を転がっていく毛糸玉を仇を見るような目で睨みつけた。
濃紺の毛糸に、デカデカとイニシャルを入れるための金色の毛糸。キャラクターを入れるわけでも、クリスマスツリーを入れるわけでもない。とってもシンプルで、でも伝統的なダサさ。今でも大人気な、魔法魔術学校のクリスマスを思い出せるようなセーター。そういうのが大好きな性格だから、喜んでくれるだろう。セーターを編むのは初めてだけど、マフラーを編んだことならある。2ヶ月前から編み始めれば、きっと大丈夫大丈夫!
なんて、お気楽気分だったのは最初だけで。
絵柄のないシンプルなマフラーと違って、セーターはめちゃくちゃ難しかった。単純に編む量は多いし、ぐるっと輪にしなければいけないし、一目一目同じ大きさ、同じ編み数にしないと前と後ろの長さが違ってくるし、何より柄がガタガタになる。ダサセーターのダサはそういうことじゃない。
編んで、ほどいてを繰り返して、どうにか前に進んではいるけれど、これじゃあとてもクリスマスには間に合いそうにも無かった。
シュトーレンも、クリスマスケーキも、ご馳走も、部屋のセッティングも、思いつくものは全て準備した。
喜んでもらいたくて、笑ってもらいたくて、……一緒にいて、楽しいと思ってもらいたくて。
なのに肝心の、クリスマスプレゼントが用意できない。
何を贈ればいいか分からなくて、ちょっとお茶目なものを選んでしまったけれど、本当はじっくり考えた。クリスマスと言えばダサセーターでしょ、まで辿り着くのにどれだけ悩んだことか。
悩んで、悩んで、これだ!と思ったのに。
でも、クリスマスプレゼントが無いなんて、そんなのきっと興醒めだろう。
だったら、と手の中のスマホを覗き込む。画面はさっきと変わらない。あとは注文確定のボタンをタップするだけ。
でも。

「……やだな」

だって、今さら、簡単に手に入るプレゼントなんて、渡したくないよ。

11/25/2023, 9:16:11 AM