若葉

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その日は満席の飛行機に乗っていた。荷物は身の回り品と小さな巾着がひとつ。巾着を開けると三日月の欠片が静かに光っていた。

実はほんの二週前にも空の旅をしていた。十年ぶりに姉に会いに行ったのだ。病床の彼女はすっかり痩せていたけれど、のんびりとした雰囲気そのままに自分を待っていてくれた。
姉も自分も年老いた。なんとそろって耳が遠いところまで姉妹で同じとは…仲が良いか考えたこともなかったが絆とはそんなものだろう。数日間の滞在中にだんだん元気になっていく姉としばし会話を楽しんだ。

またねと別れ十日を待たず姉は帰らぬ人となった。主を失った補聴器は形見の品として自分の手に残された。二人を繋いだ左右対称の小さな三日月…十日前には確かに片方ずつ使い、話が弾み笑い合っていたのだ…

もうすぐ羽田に着く。ふと、天国に近い空の上で耳に小さな欠片をあてがえば姉の声が蘇るような気がした。
…やめた。これからも続く静かな独りの時間のためにとっておこう。

#絆

3/6/2024, 9:32:05 PM