苑羽

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ぐっと、手すりに置いた手に力を入れる。
視線の先には、数十メートル下のコンクリートの地面。
そのまま身を乗り出そうとして___
何かが、ポケットから落ちてゴトリと音を立てた。

まだ消えちゃいないよ ちっちゃな希望を 何とか信じて、信じてほしい。

「何に設定したのー?」
あんたからの着信音、何にしようか迷ってるんだよね、いっそあんたが決めたら?そう言った私に、彼女は微笑を浮かべると、私のスマホを手に取った。
「ふふ、ひーみつ」
子供じみた言い方をして、彼女は片目をつぶって見せる。そして、呟くようにいった。
「私があなたに電話をかける時なんて、滅多にないだろうけど。でも、あなた抱え込んじゃう癖あるから。これでひとまず安心、かな」
その時は、彼女の言ったことの意味がわからなくて小さく首を傾げた。

裏切りが続こうが
「大切」が壊れようと
何とか生きて、生きて欲しい。

彼女は、なんて無責任で、独りよがりで、くだらないことをするんだ。そう思うのに、私は手すりから手を離し、その場に崩れ落ちた。そして生まれたての赤ん坊のように、数年ぶりに声を上げて泣いた。
こんな声で電話に出たら、あんた心配してくれるかな。それとも笑われる?でもさ、今どうしても、あんたの声が聞きたいんだ。
文句の一つくらい、言ってやらないと。
「終わりにしよう」

7/15/2023, 1:38:34 PM