緋衣草

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紅茶の香り (10.28)

「ダサっ」
持っていたケーキの箱を危うく落としそうになる。
「え、チーズケーキには牛乳だろ」
「どこの英国紳士が乳製品に乳製品合わせんのよ」
「いや僕ら日本人だし」
絶対紅茶でしょぉ、と大げさにため息をつきながら、ちょっぴりくすぐったくなる。清涼剤と砂っぽい彼の匂いにすんと目を細めた。
「で、いいのか?中三の夏に僕に付き合ってて」
「まぁ。教える方が力になっていいもん」
ふーん、と片付ける彼のノートは書き込みで真っ黒になっていて。早く追いついて、とジリジリする。
同じ高校にいきたい。でも私の成績が伸びたから、もう一つ上に行くべきだともわかっている。
「じゃあ、いただきます」
「召し上がれ。お店のだけど」
しょっぱい寂しさを飲み込むと、ねっとりしたチーズの香りがほんのり甘い牛乳と溶けていく。おいしい、牛乳すごい、とピョンピョンしていると
「紅茶とか、大人ぶってちゃダメってことよ」
ニヤリとされて、急に頭の芯がひんやり冷静になった。蘇るのは、あのやけに良い志望校判定。
「私たちは、いつまでも牛乳を選んでられないんだよ」
どーいうことだよ、と呆れたように笑う彼を泣きそうに見つめた私は、ざらりと渋い紅茶の香りを思い出した。

10/28/2023, 12:32:33 PM