0°C

Open App

「星の子」



 小指くらいの小さな蝋燭が、僕の足元をだいだい色に照らしてくれる。僕が膝を抱えて座るこの星は、無限に広がる暗闇に漂う星々の中でも、一際小さく弱々しい。

 そんな小さな星の上で僕は、ずっと1人、暗い宇宙に輝く星々を見つめて過ごしていた。時々、他の星にも遊びに行くけれど、そこで出会う人々は、不思議な人ばかりで、いつも少しのお喋りの後で、僕は自分の星に帰ってくるのだった。

 いつもと変わらず、暗い空を見つめる僕の目の前に現れたのがこの小さな蝋燭と、金色の髪を靡かせて、青い目で僕を見つめる若い男だった。


「やあ、元気かい?少年。」

「元気だよ。」

「本当?とても元気な少年って感じには見えないけれど。元気ってのはもっと、目をキラキラさせて、なんというか、力がみなぎっている感じじゃないのかい?」

「知らないよ、そんなこと。お兄さんは何しにきたのさ。」

「何しに、か。うーん、君とお話ししにきた、って感じかな。だってずっと1人で寂しそうじゃないか」

「寂しくなんかないよ、1人でいるのが普通だからね。他の星の人たちも、みんな1人で過ごしているじゃないか。そんなことも知らないの?」

「知っているよ。けれど僕には、特に君が寂しく見えたのさ。」

「だから、そんなことないよ。僕だって時々他の星へ遊びに行くよ。」

「でも、少し話してすぐに帰ってくるだけ、そうだろ?例えば、あそこの大きな星の王様。馴れ馴れしく話しかけた君に怒った王様は、すぐに君を星から追い出したんじゃないかい?」

「その通りだけれど、どうして知ってるんだい?」

「あるいは、そっちのほうで緑色に光る星に遊びに行った時には、酒飲みのじいさんが住んでいて、君がお酒を持ってないことを知るや否や、口を聞いてくれなくなっちゃったんだよね、確か。」

「何者なの、お兄さん。」

「君は彼らに出会ってどう思ったんだい?」

「変わった人たちだなって思ったよ。自分しかいない星の王様、ずっと酔っ払ってるおじいさん。他のみんなも変な人たちばっかりだったよ」

「君から見れば、彼らは不思議な存在だろうね。孤独を逃れるために、何かに縋っているわけだから。それに対して君は、孤独の中に生きている。未だ運命の渦のどんな真ん中にいる。」

「どういうこと?」

「君は無限の可能性を秘めているってことだよ。あるいは可能性そのもの、運命の源流とでも言おうか。」

「よくわからない」

「おっと、そろそろ時間がなくなってきたようだ。最後になっちゃったけど、僕がここにやってきたもう一つの理由を話さないとね。」


 足元で光っていた蝋燭は、ほとんどが溶けてしまっていた。残り少ない蝋に燃える輝きが今にも地面を焦がしてしまいそうだ。


「僕は星のゆりかごの主、そして生命をつなぐもの。君が孤独を抜け出す手助けをしにきたんだ。」

「さっきから何を言ってるの?ひとつも理解できないよ!」

「よく聞いて。今から君をこの暗闇の反対側にある大きな星へ連れて行く。その星は、この辺りの星とは違ってたくさんの人が住んでいる。ちょうど君の目と同じ色をした、美しい星だよ。」

「暗闇の反対側...?なんでそんなところにに行かないといけないの?」

「行けばわかるさ。もうすぐ時間だ、良い旅を。少年!」


 足元の明かりが消え、黒い焦げだけが残されたその瞬間!僕は光に包まれる。光の道を抜けたと思えば、暗いけれど、暖かい水の中だ。



「さあ、この"僕"はどんな運命を辿って行くんだろうね、楽しみだ。」

11/19/2023, 3:13:55 PM