「世界の終わりに君と」
ぼくは すべてを失ってしまったぼくは
きみを失ってしまったぼくは
なにもかも忘れてしまったぼくは
きみを探して きみを求めて
ずっとずっと まっしろな世界をさまよっていた
忘れたことをおもいだしたら「ていぎ」して
忘れたことも忘れてしまって
ずっとずっと 0と1の間をさまよっていた
01110010 01100101 01100011 01101111 01110110 01100101 01110010 01111001
そんなある時突然───
ぼくは全てを取り戻した。
きみとぼくで作ったたくさんの構造物。
ガラスでできた街 お菓子の国 虹色の星
青い薔薇の花畑 小さな宇宙 永遠の命
きみのこと。
闇夜のような色の髪
不思議な光を宿した瞳
子供の頃の宝物だったビー玉みたいに澄んだ声
そして、この世界を壊した彼らのことを。
全て、全てを思い出した。
でも、どうして全てが元通りになったのだろう。
きみが戻ってきたのだろうか。
いや、違う───。
「この空間は、旧型宇宙管理士によって作られたものであるとの証言が被疑者から得られました。」
「おそらく、凍結直前の状態に戻されています。」
「……思考能力を持った存在を検知しました。どういたしましょう。確保に移りますか?」
「そうだなぁ。いきなり確保せず、一旦は様子見とするか。」
「……にしても、感情の分かるやつがいないからってあたしが呼ばれるなんて思ってもなかった。」
ぶつぶつと何かを呟きながら、誰かが近づいてくる。
白衣を着た赤くて黒い髪の少女と、無表情な女性が見えた。
おそらく、この世界を壊した彼らの仲間なのだろう。
ああ、ぼくは最後まできみに会えないのか。
世界の終わりにきみと、ずっと寄り添いたかった。
ただ、ただそれだけなのに。
「暗い感情を検知しました。ご注意ください。」
「わかってるよ。」
「おーい、そこのお兄さん!あなたはこの空間のひとなの?ちょっと聞きたいことがあるんだけどさぁ!」
「……ぼくから話せることはない。」
「もしかして、あたしらのことめちゃ警戒してる?」
「まーまー、そんな怖がらなくてもいいって!」
「あたしら、別にあなたとここを作ったひとに敵意があるわけじゃないんだ。信じられないかもだけどさ。」
「とにかく、危害を加えるつもりはないってことだけ把握してもらえればオッケーだよ。……あなたがよほど反抗的なことをしない限りはね。」
「にしてもさぁ、あの緑色の髪のアイツはなに考えてんだろうね?自分の管轄内の宇宙がひとつなくなるからって普通ここまでするかな?」
「ぼくらの世界を破壊した子どもはそんなに変なやつなのか?」
「ん〜、まあ。アイツがやってることをあなたにも分かりやすく伝えるとしたら、電子顕微鏡で見えた原子に話しかけてる、みたいな感じかな?」
「……やっぱりそうなのか。ぼくと彼女の世界の存在は、あの子どもにとって邪魔なものだったから、宇宙の管理を口実に壊した。きっとそうだったに違いない。」
「そして、あなたたちがこの世界を蘇らせてくれた。」
「……ありがとう。本当に感謝している。」
「それほどでも、なんてね。まぁとりあえず、この世界についてもっと詳しく教えてよ。」
「分かった。でもその前に、もし、もし知っていたらでいいんだ。ぼくにも知りたいことがある。」
「なにが知りたいの?知ってる範囲でしか答えられないけど。」
「この世界を一緒に作った、ぼくの大切なひとに会いたいんだ。もし、また会えたら、また話が出来たら、どれだけ幸せなことか。」
「……分かった。調べてみるね。」
あとは君さえいれば、ぼくは、この世界は完全なものとなる。
もう一度、あの愛と平和に溢れた幸せな世界を見たい。
そのためならぼくはなんだってできる。
きみのためなら、世界のためなら、なんだって。
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対象者は捜査に協力的みたいだ。
マッドサイエンティストの事情聴取で得た情報通り、彼はアイツに相当怒りを抱いてるっぽい。下手なことできないな。
まあでも、もしあたしがアイツの立場だったとしたら、宇宙が少なくなったことがわかればすぐに特定して対象を直接破壊するだろうと思う。
……マッドサイエンティストとか名乗りながらも温情はあるみたいなんだよなぁ。やってることはめちゃくちゃに見えるけど、実際は効率的かつ優しいというか、意外とちゃんと考えられてる。
多分あたしとアイツが直接会うことはないだろうけど、もしそうなったら色々話を聞いてみよっと。勉強になりそうだし。
……それじゃあ、改めて気を引き締めないと、だね。
6/8/2024, 2:46:48 PM