仮色

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【光と闇の狭間で】


「これで…よしっ」

ポチッと投稿のボタンを押して、後ろ側に大きく伸びをした。
ボキボキと鳴る体に何時間作業をしたのか気になって時計を見ると、午前3時で驚く。閉め切っていたカーテンを少し開くと、案の定真っ暗であった。
外の暗さに、時間見ずに投稿しちゃったな…と少し後悔をする。
どうせなら多くの人に自分の作品を聞いてもらいたいのがクリエイターというものだろう。
だが自分の知名度もまあまあ上がってきたのか、ちらりと今投稿した曲の再生数を見ると、3桁に届いていた。
まだ出して数分、しかも3時。世の中には3時に起きている人間が沢山居るもんだなと何だか感心してしまう。
確認の為に何回も聞いた自分の曲を、最後にともう一度再生する。

希望、光、そんなものをテーマにした曲だ。
何か元気がつくような、勇気が出るような、そんな曲になるように作詞作曲をした。
ここがこだわりポイントなんだよな、とか、ここの歌詞悩みまくったな、とか振り返りながら聞いていると、あっという間に聞き終わってしまった。

私の作り上げた数分は人に何かを感じさせることが出来るだろうか。

そんなことを思ったって、自分は作り上げた立場なので分かりはしない。

「あ~〜…めんどくさいけど仕事するか…曲だけ作る人生送りたいもんだ」

今日までに終わらせておかないといけない仕事の予定が書かれたスマホのメモを眺める。運がいいことに今日は2件だけ。しかも簡単なやつ。
早めに終わらせて、その頃には沢山ついているだろう曲の感想コメントを見よう。
そうと決めて、仕事をするために真っ黒な服に着替える。
ぴちっと体にフィットする服はあまり好みではないが、動きやすい方が仕事も早く終わるので我慢だ。
関節の動きとかで行動を予測されないようにフード付きのポンチョを着て、手袋を付けて、体中に刃物を隠して、仕事用のバックを腰に付けたら準備完了だ。
曲作りが3時に終わって良かったかもしれない。多分皆んな寝てると思うし。
今私の曲を聞いてくれた人以外は、だけど。

「目標6時までかなぁ、それ以降は明るくなってきついし」

そう決めると、夜に持ち越しにならないように、私は直ぐに仕事に飛び出した。

今日の暗殺相手は希望なんか持ってくれてないと良いな、と頭の隅で考えながら。

ーー ーー

希望と光を与える曲の作曲者が、闇にどっぷり嵌っている奴だとしたら。
その曲は光なのか、闇なのか。それともその狭間でゆらゆらと揺れているのか。

多分、受け取り側の気持ちが全てなんだろう。

12/2/2023, 1:54:09 PM