図書室で本を読んでいると、彼がやって来た。最近、転校してきて私の隣の席になった。それだけで何故か親しげに振る舞ってくるのだ。転校直後の知り合いがいない環境で心細いのかもしれない。そう少し同情して構ったのが良くなかった。まるで最初から友達だったのかと勘違いするほど、一緒にいることが多くなった。移動教室の時も昼食の時も休み時間も。隣良い?と私の答えも待たずに隣に座る。相変わらず話を聞かない男だ。無視して本を読もうとするが、話しかけてきて集中できない。
「ねえ、読書好きなの?どんなジャンルが好き?」
「私が何読もうが関係ないでしょ」
彼は本の題名を盗み見ると、小さく声を上げた。
「あ!この本、この間映画化したやつだよね。たしか、恋人の片割れが転校して離ればなれになったけど最終的に結ばれるやつ」
「ああ、よくある恋物語なんだ…って、ネタバレしないでよ」
「俺はありきたりでも好きだよ、こういうのは」
「ふうん」
まあ、人の感性なんてそれぞれだし。彼との会話を終わらせ、本の世界に没頭しようと活字を追い始める。
「ところでさ、架空の二人のハッピーエンドだけで満足?」
「…何が言いたいの」
「白々しいよ、俺が君のことずっと気になってること知ってるでしょ?」
「ストーカーみたいに付きまとう男は嫌なんだけど」
「だって、そうしないと君は俺に興味持ってくれないじゃないか」
彼は拗ねたように頬を膨らます。こんなんでも顔が良いから、なかなか様になっている。
「昔からそうだよね、君は。俺のことには全く興味なくて他の子とばかり遊んで」
彼からの言葉に耳を疑う。
「は?私、あんたと会ったことないけど」
「酷いよ、近所の公園でいつも遊んでたのに、引っ越すから挨拶したのに。やっぱり覚えてないんだ」
早口で詰め寄る彼に少し恐怖を感じ、距離をとるために席から立ち上がった。だが、彼はその分距離を詰めてくる。
「でも、また会えた。会えたんだから、この恋だって成就するはずだ。君だってこの本の二人みたいに」
物語はハッピーエンドが良いよねと頬を赤らめ、手を握られた。
「悪いけど、私の人生にあんたとのハッピーエンドはないよ」
手を払い睨むと、彼は少し目を丸くしたが不敵に笑った。
5/19/2024, 9:25:04 AM