わをん

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『どこまでも続く青い空』

農場から帰ってくると愛犬がなにやら咥えている。
「ただいま。今日は何を見つけてきたのかな?」
普段はただの愛らしい犬は山に入るととてもよく働く猟犬だ。なので拾ったものはとりあえずこちらに見せてくれるし、あげるよと言えばおもちゃにしたり食糧にしたりする。咥えた口からぽとりと落とされたそれはどうやら弱った生き物のようだった。
「……あー、これはこれは」
拾い上げて検分するとくちばしがあって羽もある。そしてまだ暖かみがある。
「ごめんね、これは僕がもらうよ」
利口な愛犬は少しだけ惜しそうな顔をするとその場にうずくまり拗ねてしまった。
弱ったひよこを箱に入れ、湯たんぽに布を巻いたものの傍に置いてやると少し元気を取り戻してピィピィと囀りだした。飼料用の穀物を問題なく平らげたひよこは甲斐甲斐しく世話を受けるうちにぐんぐんと成長し、今では愛犬と変わらぬ大きさにまでなっている。
「君はなんていう鳥なんだろうね……?」
俊敏に動く犬と鳥はお互いいい遊び相手になっており、空中を縦横無尽に舞う鳥を犬は身体をバネのように躍動させて今日も飽きることなく追いかけている。種族の違う友人同士が遊び回るのをずっと見ていたい気持ちはあるけれど、野生のものはいずれは野生に返さないといけない。
よく晴れた日に空を見上げる。あれからもう少し大きくなった鳥も同じように空を見つめていて、これから自分がどこへ行くべきなのかをわかっているようだった。
「さぁ、お別れの時間だよ。友達に言っておきたいことはあるかな?」
心なしか涙ぐんでいるように見える愛犬は鼻を鳴らして鳥にひとしきりじゃれついた後、僕の足元から離れなくなった。
そよそよと風が吹いてきたのを見計らっていたかのように大きな鳥が翼を広げ数回羽ばたかせて空へと舞った。頭上を何度か旋回した鳥は友人の吠える声に耳をそばだてていたが、やがて空の彼方へ向かってまっすぐに羽ばたいていった。どこまでも続く青い空にその姿が見えなくなるまで愛犬はじっと大空を見つめていた。

10/24/2024, 4:28:23 AM