名無しの夜

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歴史の教科書の、遺跡の写真を見て。

胸の奥がギュッと痛くなるほど
心惹かれた風景があった。

なぜそんなに惹かれたのか、
理由はよくわからない。


昔、そこで暮らしていたとか——

そんなファンタジーを
信じたくなるくらい、惹かれる場所。


いつか行ってみたいとずっと思っていた。


とはいえ、社会情勢的になかなか厳しいし。

それなりに金額もかかるから
すぐには無理。

でもいつか、きっと……。


そんな夢を追いかける前に
『家族』が出来て。


ふわふわで愛しい
あの子と、この子にも出会って。


私は憧れの場所どころか
泊まりがけの遠出は一切、できなくなった。


特にあの子は
生まれつき腎臓が良くなくて。

毎月、それなりにお金もかかる上、
病状が進行するであろう晩年には
年間3桁万円単位が吹き飛ぶと学び知って

貯金が最優先事項——となった。



年を経て。

『家族』の関係が一段落つき。

自分の時間も少し取れるようになって。


日帰り旅行くらいなら行けるかも、なんて
思い始めた矢先。

あの子の病状が、悪化してしまった。


どこにも行けなくても良かった。

あの子と、一緒に過ごせるなら。


食欲が落ちて、寝そべるあの子の口先に
ウェットフードのお皿を差し出すと

気まぐれにあの子が食べる。

食べやすい角度はこうかな、なんて模索して。

私達はまるで、
ローマ時代の貴族と奴隷みたいだったよ。


もしかしたら
本当にそうだったのかもしれない。


どれだけ願って祈っても

永遠はなかった。


あの子はひとり、遠くに旅立ってしまった。


まだこの子がいるから
追いかけることもできない。


この子も旅立ってしまったら

わからない、けれど。


『もしかしたら』の幻想を追って。


心惹かれた場所を、

姫と従者に、空気読めないおっとり王子が
存在していたかもしれない

そんな地域を

探して、巡ってみようかな。


まあ……、
健康とマネーに余力があったらの、夢話!

6/11/2024, 2:28:46 AM