君と見上げる月はいつもより明るく僕らを見てくれてる。
【新しい名前募集.#瑠衣、からのほかの名前募集】
^_^👍🏻いつも通りの奴がいい人はこの矢印の下に書いてあります!⤵
🌕君と見上げる月
第一話:月の下、終わりと始まり
夜の駅。人はまばらで、風だけが冷たく吹き抜ける。
「なんで俺ばかり…不幸に合うんだよ…」
蒼真は、誰にも聞こえないように呟いた。バイト先では理不尽に怒鳴られ、家では居場所がなく、友達もいない。スマホの通知はゼロ。今日も、何も変わらない。
ふと、空を見上げる。
そこには、雲ひとつない夜空に浮かぶ、異様に大きく、青白く輝く月。
その瞬間、足元がふらつく。誰かに押されたような感覚。気づけば、線路の上。
「…あ、終わった」
轟音。光。痛み。
そして、静寂。
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第二話:月の届かぬ場所で
目を覚ますと、蒼真は冷たい石の床に横たわっていた。
天井は低く、壁は濡れていて、空気は重い。光はない。月もない。
「…ここ、どこだよ…」
声が洞窟の奥に吸い込まれていく。返事はない。
ポケットには何もない。スマホもない。時間を測るものもない。
最初の数日は、出口を探して歩き続けた。だが、同じような分岐、同じような壁。水音が聞こえる方向に進んでも、行き止まり。
やがて、日数の感覚が消えた。
空腹も、寒さも、恐怖も、すべてが混ざっていく。
そしてある日、岩陰から低い唸り声が響いた。
「…ガルルッ…」
灰色の毛並みを持つ四足獣——《洞窟猟犬(ケイヴ・ハウンド)》が姿を現す。体長は人間ほど。目は赤く、牙は鋭い。
蒼真は咄嗟に石を拾って構える。
「…やるしかねぇか」
獣が飛びかかる。蒼真は横に転がり、壁にぶつかる。痛みが走る。
手のひらに意識を集中すると、青白い光が滲む。月の影に触れた時の感覚が蘇る。
光を放つ。獣の目が眩み、一瞬怯む。
その隙に、蒼真は石を振りかざし、獣の頭部を殴る。何度も。何度も。
やがて、獣は動かなくなった。
蒼真は肩で息をしながら、呟く。
「…俺でも、やれるんだな…」
その瞬間、洞窟の壁が微かに震え、奥に続く道が開けた。
まるで、試練を越えた者にだけ道が示されるかのように。
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第三話:朝の光と、黒麦のパン
洞窟を抜けた蒼真は、どれだけ歩いたか分からないまま、丘を越えて進み続けた。
空は夜。風は冷たい。だが、遠くに橙色の光が見えた。
焚き火か、灯りか。人の気配。
「…村、か?」
蒼真は光に向かって歩き続け、村の入口に辿り着いた瞬間、膝が崩れた。
——意識が、途切れる。
*
次に目を覚ました時、蒼真は柔らかな布団の上にいた。
木造の天井。窓から差し込む朝の光。どこか懐かしい、温かい匂い。
「…起きたかい?」
声の主は、白髪を三つ編みにした小柄な女性。皺の深い笑顔が、優しく揺れていた。
「村の入口で倒れてたんだよ。あんた、よく生きてたねぇ」
蒼真は言葉が出なかった。ただ、涙が滲んだ。
「さ、食べなさい。冷める前にね」
木のテーブルに並べられた食事——
- 黒麦で焼かれた、ずっしりとしたパン。表面は硬いが、噛むほどに香ばしい。
- キノコと肉のシチュー。土鍋から立ち上る湯気と、野生の香り。肉は柔らかく、キノコはぷりぷりしている。
蒼真は、無言でパンをちぎり、シチューに浸して口に運ぶ。
「…うまい…」
その一言に、おばあさんは笑った。
「食べる元気があるなら、大丈夫だね。ここは《ルーナ村》。月の巡りに感謝して生きる、小さな村さ」
蒼真は、月という言葉に反応する。
「…月…」
「そう。この世界じゃ、月は“巡り”を司る神様みたいなもんさ。あんた、月に導かれてここに来たんだろ?」
蒼真は、何も言えなかった。ただ、パンをもう一口かじった。
その味は、確かに“生きている”味だった。
*
食後、湯を借りて顔を洗った蒼真は、部屋の隅に置かれた古びた鏡に目を向けた。
ぼんやりと映る自分の顔。痩せて、疲れて、でもどこか…違う。
鏡に近づく。
右目——その瞳の奥に、青白く輝く“月”の形をした紋様が浮かんでいた。
それは皮膚の上ではなく、瞳の奥に刻まれているようだった。見ようとしなければ気づかない。だが、確かにそこにある。
「これ…いつから…?」
蒼真は思い出す。洞窟の奥で光に触れた瞬間。獣を倒したあと、壁が開いた時。
あの時から、何かが変わっていた。
おばあさんの言葉が脳裏に響く。
>「あんたの目も、そうだった。青くて、揺れてて…まるで、月の影を映してるみたいにね」
蒼真は鏡から目をそらし、窓の外を見た。
空には、まだ月が残っていた。静かに、確かに、彼を見ていた。
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第四話:魔族の影、月のざわめき
それは、穏やかな朝だった。
蒼真は村の子どもたちに囲まれながら、薪割りを手伝っていた。ぎこちない動きに笑いが起きる。おばあさんの家にも、少しずつ馴染んできた。
だが——
「魔族が出たぞ!!!」
叫び声が、村の広場に響いた。
振り返ると、土まみれの農夫が息を切らして走ってくる。顔は蒼白、手は震えていた。
「東の畑だ!黒い霧が出て、獣みたいな奴が…!人じゃねぇ!」
村人たちがざわめく。鍬を持って集まる者、子どもを抱えて家に戻る者。空気が一瞬で変わった。
蒼真は立ち尽くす。
「魔族…?」
おばあさんが、静かに言った。
「月の巡りが乱れてるのかもしれないね。魔族は、巡りの外から来る者。あんたの目の印も…関係あるかもしれないよ」
蒼真は、右目を手で覆った。月の紋が、じわりと熱を帯びている気がした。
「俺が…関係ある?」
おばあさんは、静かに頷いた。
「分からない。でも、あんたは“来た者”だ。この世界の理に触れてる。だからこそ、見えるものもあるはずさ」
村の広場では、若者たちが集まり始めていた。討伐隊を組むか、避難するか。決断の時が迫っていた。
蒼真は、拳を握った。
「…行く。俺も、行くよ」
おばあさんは、少しだけ微笑んだ。
「なら、月に祈るんだよ。巡りが、あんたを守ってくれるようにね」
空には、昼なのに、薄く月が浮かんでいた。
その光は、蒼真の右目の紋と、静かに呼応しているようだった。
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了解、それめっちゃ熱い展開。蒼真が討伐隊に加わるんじゃなくて、あえて単独で動くことで「異世界の外から来た者」としての覚悟と孤独が際立つね。じゃあ、第五話として、蒼真が村の騒ぎの中で静かに動き出し、魔族との初戦闘を描くよ。
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第五話:月の紋、ひとりの戦い
村の広場では、討伐隊の編成が始まっていた。
若者たちが武器を持ち寄り、農具を改造し、魔族に備えようとしている。空気は張り詰めていた。
だが、蒼真はその輪に加わらなかった。
「…俺は、俺のやり方で行く」
誰にも告げず、蒼真は村の裏手から森へと向かった。東の畑——魔族が現れたという場所へ。
月の紋が刻まれた右目が、じわりと熱を帯びる。
森の奥、空気が変わる。黒い霧が地面を這い、木々がざわめいている。
そして——現れた。
人型だが、腕は獣のように太く、顔は仮面のように歪んでいる。目は赤く、口元には笑みとも苦悶ともつかない表情。
魔族。
蒼真は、石を拾うでもなく、手を構える。
「…来いよ」
魔族が咆哮とともに突進してくる。蒼真は横に跳び、地面を蹴って距離を取る。
右手に、青白い光が集まる。
月の紋が輝き、蒼真の手から放たれた光が魔族の動きを止める。
「…これが、俺の力か」
魔族が再び動き出す。蒼真は地面を滑るように走り、魔族の背後に回り込む。
拳を握り、光を纏わせて——
「終われ!」
一撃。魔族の胸に光が突き刺さる。
黒い霧が爆ぜ、魔族は叫びながら崩れ落ちた。
蒼真は、肩で息をしながら、立ち尽くす。
「…俺でも、守れるんだな」
その瞬間、空に浮かぶ月が、雲の切れ間から顔を出した。
静かに、確かに、彼を見ていた。
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第五話(終):霧の中の声
魔族が崩れ落ちたあと、蒼真はその場に立ち尽くしていた。
黒い霧はまだ地面を這っていたが、風もなく、音もない。まるで時間が止まったような空気。
そのとき——
霧が、蒼真の足元から立ち上がり、彼の身体を包み込んだ。
「…っ、なに…?」
視界が白く染まり、空間が歪む。
そして、静かな声が響いた。
「——あなたは、私の大切な子」
蒼真は振り返る。そこには、白い衣を纏った女性が立っていた。顔ははっきり見えない。髪は長く、月光のように淡く揺れている。
「…誰だよ…俺を知ってるのか?」
女性は微笑む。悲しげにも、優しげにも見えるその笑み。
「あなたは、巡りの外から来た者。けれど、私の巡りの中にいる。だから、あなたは私の子」
蒼真は言葉が出なかった。
意味が分からない。けれど、心の奥がざわめいていた。
「…俺は、ただ…死んで、ここに来ただけで…」
「それでも、あなたは選ばれた。月が、あなたを見ていた。ずっと」
霧が再び濃くなり、女性の姿が霞んでいく。
「待って…!」
蒼真が手を伸ばすと、霧が弾けるように消えた。
気づけば、彼は魔族の残骸の前に立っていた。空は静かで、月は高く昇っていた。
右目の紋が、微かに脈打っていた。
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9/14/2025, 1:22:46 PM