真岡 入雲

Open App

【お題:開けないLINE 20240901】

「これ、『あけない』と『ひらけない』どっちだと思う?」
「うーん?」

スマホの画面を君に向ける。
食後のまったり時間、夕飯を食べてお腹いっぱいの今、君は少し眠そうだ。
ソファに深く腰掛け、抱き心地で購入を決めたクッションを抱きしめて、テレビを見ているようで見ていない。

今日の夕飯は青椒肉絲だった。
この時期、ピーマンは安価で手に入る。
ピーマンを切りつつ、お米の話題になり『大変だよね』と呟いた僕に君は無言で頷く。
青椒肉絲なら玉子スープもないといけないと、謎のこだわりを見せた君は玉ねぎと人参も冷蔵庫から取り出して処理し始め、あっという間にスープを作ってしまった。
僕はと言うと、やっとピーマンの細切りを半分終わらせたところで、そんな僕を見て君はクスクスと笑う。
仕方がないだろう、君は料理が得意だけど、僕は初心者なんだから。
それにこのピーマンの量、多すぎじゃないかな?
僕がそう言うと君は、冷凍する分とピクルスにする分も切ってもらってると、涼しい顔で言う。
いや、すげえ時間かかってるし大変なんだけどって愚痴ると、何事も経験、そして練習って言う。
まぁ、サボりたがりの僕には君のようにちょっと厳しい人の方が良いんだろうな、とか思った。
ピーマンを切った後は、君に教えられながら人生初の青椒肉絲作り。
油が跳ねて少し火傷したけど、いい感じに出来た。
まぁ、味付けは君がやったから当然なんだけどね。
君の実家から送って貰っているお米が丁度いいタイミングで炊けて、茶碗によそってテーブルに並べる。
君の作った玉子スープに青椒肉絲、作り置きの金平牛蒡ともやしのナムル⋯⋯、あれ、今日のメニューって細長い物ばかりじゃないか?
なんて事を話しながら、楽しく美味しい時間を過ごした。

「はだけない」
「うん?はだけない?」

半分眠ってる君がボソリと呟いた。

「そう、はだけない」

君が言っていることの意味がわからず、僕はスマホで検索する。

『はだけない』

すると、『開けない』と書いて『はだけない』とも読むらしい。
日本語って難しいな、とつくづく思う、でも。

「いや、『はだけないLINE』はさすがにおかしいだろ」
「うぅん⋯⋯」

あらら、君は片足どころか両足、いや首元くらいまでどっぷりと夢の世界にいるみたいですね。

「寝るの?寝るならベッドに運ぼうか?」
「ううん⋯⋯」
「うわっ、ちょっ⋯⋯」

寝ぼけた君が僕に抱きついてきて、そのままソファに押し倒された。
僕の胸元で規則正しい寝息を立てる君の髪を撫でる。
サラサラと指の隙間から落ちる感触が楽しくて、しばらく君の髪を弄ぶ。
こんな時間がこれから先も続きますように、そう願わずにはいられない。

「もう、どっちでもいいか」

『あけない』でも『ひらけない』でも。
そう言った矢先、スマホからメッセージの着信音が聞こえた。

「あ、ヤバ⋯⋯」

手を伸ばしてみたけど、スマホには到底届かず、かと言って動けば君を起こしてしまいそうで。

「⋯⋯⋯⋯うん、気が付かなかった事にしよう」

その後も何度か送られてくるメッセージの着信音を僕は聞かなかったことにする。
この時間にこの頻度で送られてくるメッセージはあの人からの厄介事だ。
これが『開けないLINE』か、と一人納得する。
『ひらけない』と『あけない』、どちらも正解となるのが日本語の面白いところだな。
僕は僕の腕の中ですぅすぅと寝ている君と一緒に、夢の世界へ旅立つことにした。


━━━━━━━━━
(´-ι_-`) で、実際はどっち?

9/1/2024, 12:32:21 PM