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『キャンドル』

これまで心底どうでもいいことばかり記してきた俺が、ここにきて人生において役に立つことを書いてみる。
それは『ガラにもないことをあえてやってみる』ということだ。
人は自分の性格や姿形で自分をこういうものだと無意識下で決めつけて、つい自分が認識してる自分がやりそうな趣味や趣向をおこなってしまいがちだが、実はそんなことないのだ。
たとえば俺。100人の見知らぬ人に『この人はドーナツが好きだと思いますか?』と質問したら、80人近くは気難しそうで無愛想に見える俺のことをドーナツが好きじゃないと思うだろうし、彼はドーナツよりイカの塩辛や醤油せんべいが好きそうだと答えるだろう。実際、俺はドーナツが好きじゃない。いや、好きじゃないと決めつけていた。
ドーナツなんて俺が食う物じゃないと勝手に遠ざけていた。
だけど、物は試しと「あのー、すみません、このエンゼルなんとかと……そこのやつと……あと、へ、へへ、ポ、ポン・デ・ザクショコラ……ください……テイクアウトってやつで、はは」
恥を忍んでドーナツを購入し、家に帰って食ってみると驚くほどに美味かった。はっきり言って数年ぶりに食べ物で感動した。
人生の幸福度が20%くらいアップした。
そうして俺は、大人になってようやく気付いたのだ。自分を自分でキャラ付けして、似合わないからやめとこうと思うのは馬鹿らしいということに。
それからというもの、自意識という殻を破った俺は色々なコトにチャレンジした。
スーパー銭湯に一人で行って流行りのサウナで整ったり、キックボクシングジムに入門したり、ターミネーターツーが好きなので大型二輪免許を取ろうとした。
サウナは地元のおっさん連中が水風呂を占拠するし、キックボクシングジムはすぐ潰れたし、大型二輪免許は取ろうと思ったけど絶対乗らないだろうしそもそもバイクを購入する金がないからやめたけど。

まぁ、とにかく……
そんな俺がガラにもなく『キャンドル風呂』でリラックスしてみようと思うのは必然だった。
たしかあれは数年前だったか。
念入りにユニットバスの浴槽を掃除して、お湯を貯めて、ネット通販だかなんだかで買ったアロマキャンドルってやつに火を灯して、キャンドルの明かりだけが揺らめく狭い浴室で半身浴してみた。
BGMはもちろん、タイだかインドだかの『プァァァ~ン、ヌァァァ~』って感じの、瞑想できそうな曲をスマホで垂れ流しつつ。
(おお、いい……いいな……宇宙を感じる……)
そうとでも思わなければ、目を閉じて暗い浴室でキャンドルをつけて変な音楽流して、全裸でお湯に浸かって瞑想してる自分の存在を肯定できなかった。

取捨選択の必要はあるが、俺が言いたいのはなんでも一回はやってみよう!ということ。それと、キャンドル瞑想風呂は俺には合わなかったということ。

11/19/2024, 10:45:16 AM