水たまりがあった。
雨上がりの地面にあるそれには晴れた空が浮かんでいる。
カラスが二羽水たまりに映り過ぎると、女性と男児の声が聞こえてきた。
紫陽花の植わる団地内の道路を一組の親子が歩いている。
「今日はどんな一日だった?」
「きょうはねー、コウくんとおりがみしてねー、なっちゃんとおすなばあそびしてー」
幼稚園の帰りらしく、手を繋いだ親子は楽しそうに話をしながら帰路を進んでいる。
「んでねー、あっ!」
「あっ、みっくん!」
何かを発見した男児が咄嗟に手を放し、母親の声にも振り返ることなく一目散にそこへ向かった。
ばしゃん!
勢いよく黄色い長靴に踏まれた水たまりは小さく波を上げて弾けた。
幸いそれほど深くはない水たまりだったので、男児は長靴以外濡れることなく、難を逃れた。
安堵の息をつく母親の気持ちを知ってか知らずか、男児は足先で水を蹴って戯れている。
「こら、みっくん! 勝手にママの手放さない!」
男児に追いついた母親が小さな手を掴んだ。
「もう帰るよ。ごはんの支度しなきゃ、パパ帰ってきちゃう」
「え! 今日パパ早く帰ってくるの!? うん、かえる!」
母親の言葉に笑顔を咲かせた男児は繋がれた母親の手を握り返した。
仲良く手を振って帰る親子の姿が水たまりに映る。
遠ざかっていく姿の遠くに、うっすらと虹が反射していた。
/6/5『水たまりに映る空』
6/5/2025, 3:54:32 PM