薄墨

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リボンと包装紙を220円で買う。
最近のラッピングは有料だから。
ビニール袋と同じように聞かれるものだから、つい断ってしまったのだ。

プレゼントに、ラッピングは欠かせない。
ただの市販のお菓子も、パッケージが煩雑なおもちゃも、包めばプレゼントらしくなる。
況んや、雰囲気充分のプレゼントなら、だ。

ケースまでついた万年筆。
父親の還暦祝いに奮発して買ったプレゼントだった。

でも渡せなかった。
還暦を迎える前に、父親は亡くなってしまった。
一瞬のことだった。
居眠り運転の車が突っ込んできて、父は亡くなった。
父親の還暦は、年明けに迫っていた。

お葬式は、クリスマスになった。
年末の休業日が迫る中、落ち着いて父の死を悼める日どりはそこしかなかったのだ。

だから、私は今年、初めて父の枕元に、クリスマスプレゼントを置くことにした。
私が幼い時に、父がしたように。
父が寝ているのは、布団ではなく棺だけれど。
父はもう起きることはないけれど。

しかし、私はラッピングを忘れていたのだ。
還暦祝いなら、プレゼントの渋い中身むき身のこのままで、充分だったろう。
クリスマスプレゼントなら話は別だ。
最初で最後の、死出の旅のお供になるプレゼント。
妥協はしたくなかった。

…しかし、小心者の私は、喪服でクリスマス一色の雑貨屋や専門店に入って行くことができず、近場の100均で、こそこそ包装を買うのだ。

父が生きていたら、きっと呆れて、笑われただろう。

プレゼントには包装は欠かせない。
私は220円を払って、包装紙を買う。リボンを買う。

陽気なクリスマスキャロルが、店内に流れていた。

12/23/2024, 11:04:33 PM