それは安らかな瞳だった。
3ヶ月前まではあんなに元気で、毎朝元気に「いってらっしゃい」。帰ってくるとにこやかな表情で「おかえり」。でも俺は反抗期だったから必要最低限の会話しかしなかった。
でも、3ヶ月前のあの日、俺がいつも通り帰ってくるとお袋が倒れてた。末期癌だった。
俺は自分に腹が立った。俺がもっとお袋のそばにいてあげてれば、お袋ともっと会話してあげてれば、お袋の変化に気づけてたかもしれない。でも、そんなタラレバ今更遅いんだよ。
今まで女手一つで俺の事を育ててくれたお袋に恩を仇で返すような真似をした。お袋はこんな薄情な息子で幻滅してるだろうな。
ベッドに寝ているお袋の手は俺よりも小さく、細く、青白かった。こんなになるまで俺は気づけなかった。そう思うと自然と涙が流れた。やっぱり俺にはお袋しかいなかったんだ。お袋の小さな手を強く握りしめるとお袋は目をゆっくりと開けた。
「なに泣いてんのよ」と言いながら優しく微笑んだ。そう言うとお袋は静かにまた眠りについた。
俺が最後に見たのはお袋の安らかな瞳だった。
3/14/2024, 1:28:09 PM