『これまでずっと』
騙すつもりは無かった、ただ言い出せなかっただけ、という言い訳をした顔に私は悪くないと書かれており、思わず私は長年の付き合いである友人と思っていた女の顔をグーで殴った。学生時代にやんちゃをしていた頃以来のグーパンチにはキレがなかったけれど、久しぶりに手応えある殴り心地だった。
次に夫を振り返ると引き攣った笑みの張り付いた顔を強張らせていた。胸ぐらを掴む。これまでずっと良き夫だと思っていたけれど、これまでずっと何食わぬ顔で浮気を繰り返すような男だったとは。自分の見る目のなさに不甲斐なくなり、目の前で怯えた顔をする男の何が良かったのだろうと不思議に思えてくる。
「これまでずっとありがとう」
思ってもいないことを別れの挨拶とし、振りかぶった拳を握り固めて一切の躊躇も加減も混じえずに振り抜いた。
7/13/2024, 6:55:25 AM