『I love』
彼の声が聞こえる。
もう二度と聞くことの無いと思っていた声。
僕だけに聞かせる、優しくて甘い甘い心地よい声。
最後に聞いた彼の声は、決してそんなものではなかった。
「──さん、あいしてる、」
「ほら、なんて言うんだっけ、I love ……」
『ここに居たぞ!』
彼がこの世から去る間際、必死こいて覚えたのであろう英語を呟いた。
然しそれは彼が去る原因となった者に掻き消され、肝心なところが聞こえなかった。
そこが聞こえないんじゃ、意味が無いよ。
どうして、ちゃんと聞きたかったよ。
この指輪も、直接渡してくれないと嫌だよ。
この呟きも、もう二度と彼には届かない。
だけど僕は、今日も彼の面影を探すのだ。
「ほら、覚えたんだぜ。I love ……」
聞き覚えのある声。ずっと探していた声。
聞き間違えるはずのない声が、僕の耳に届いた。
急いで後ろを振り返る。
そこに居たのは、彼の容姿と全く同じの、だけど住む世界が変わった彼だった。
「あのっ!!!」
気づけば僕は、彼の腕を掴んでいた。
どうしよう、何も考えていなかった。だけど、今話しかけなければ、もう会えない。
「僕、僕!あなたのことが好きです!!」
「……オレも。オレもだぜ、──さん。
I love you」
1/30/2023, 4:22:39 AM