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 君と結婚したい。
 言葉にすれば、たったそれだけの話。
 人と人とが愛し合って、最期まで添い遂げようとする、どこにでもあるようなありふれた話。──それだけのとても簡単な話が、どうしてか月に行くよりも難しいのだ。
 楽しいことも、嬉しいことも、悲しいことも、つまらないことも、なにもかもを君と共有したかった。
 病めるときも健やかなるときも側に居たい。ずっと共にあることを誓いたい。他人に認めてもらえなくても、法に認めてもらえなくても、神に認めてもらえなくても──君と私さえあればいいって、そう信じていたかったんだ。
 ──でも駄目だ。信じるだけで人は救われない。落とし穴はいくらだってあるのに、蜘蛛の糸の一本ですら見えてこない。
 これまでの人生で、善行ばかり積んだとは言わない。いちども悪行をしなかったとは言わない。──けれど、でも、だって。
 "普通"の人間なら当たり前に手に入っていたはずの権利が、私たちには、こんなにも遠い。
 なにがいけないのだろう。私たちはなにを間違えているのだろう。──私たちは、どこで普通じゃなくなったのだろう。
 誰に聞いたところで明確な答えの返らない問いを抱えたまま、私は今日も君と間違いだらけの恋をするのだ。

8/4/2023, 2:39:57 PM