一ノ瀬 奏

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#24 待ってて

また、地獄のバレンタインデーがやってきた。
バレンタインなんて金がかかるだけだし、気を遣うことばっかりで正直なところうんざりだ。
男の子にあげる人なんか、カップルの片割れか、両片想いだってわかってる勝ち組だけでしょ?
それ以外は女子同士で配り合うだけ。
所詮、バレンタインなんてキラキラ女子のためのイベント。
私みたいに女子力も持ち合わせていない女はお呼びでないってわけ。
そもそも、私甘いもの大っ嫌いだし。
でも、チョコをもらえば、
「え〜!!私全然準備してなかったよ〜!お返し来週まで待ってて!!」
なーんて、チョコよりも甘ったるい声で愛もこもってない笑顔を向けてしまう。
お返し?なにそれ、勝手に配給されたものにお返ししなきゃいけない制度が意味不明なんだけど。
どうやらバレンタインにチョコを配るのは日本だけらしいし、チョコ会社の陰謀だ。絶対に。
教室に充満するチョコの匂いにのぼせる。
頭がクラクラしてきて、廊下へ飛び出した。

屋上で息を整える。
二月の冷たい風が頬を撫でてそのまま私を包み込んだ。
机の上に溜まっていくお菓子の山を想像するだけで、背中に蟻が登ってくる気持ちになってくる。
はー、と小さく息を吐いて、出来上がった白い靄を眺めた。
一人最高。って言いたいところなんだけど、そういう気持ちでもないのは自覚済み。
わかってる、これがジェラシーってやつだってことくらい、とっくに。
「あげる人なんかいないし!」
そう言って笑った自分の頬は重かった。
あげたい人は、いたじゃん。
でも、到底渡せる相手じゃないから、準備をしないって選択を取ったのは私だ。
どうせ、私のことなんか君は気にしてないんでしょ。キラキラ輝いて眩しい笑顔。
プリントを回すときの綺麗な指。
低くて、それでいてひどく優しい声。
全部が身体中を駆け巡って甘すぎるものを食べた時みたいに頭がキーンとした。

ピコン


携帯の通知音が乾いた空気を震わす。
どうせ、公式LINEかなんかでしょ。
ため息混じりに開いた画面を見て、なにもできなくなった。

「そこで待ってて」

え、は?なにこれ。夢?
君からのLINE、初めてだし。
頬を思いっきりつねってみても、涙が出るくらい痛くて、これが現実だって感覚がじわじわと指先を温める。
どうしよう、なんて返信する?
のぼせた頭には言葉が全然思い浮かんでこない。

ギーー

もたもたしている間に屋上の鉄扉が開く。
「やっぱり、ここにいた」
太陽は沈みかけてるっていうのに、彼の周りだけ一際綺麗に煌めいていた。
「なんで」
声が掠れる。
「渡したかったんだ」
彼は照れ隠しみたいに頬をかきながら、私の横に座った。
近い近い近い。やばい心臓の音聞こえちゃうよ。
「これ、どうぞ」
膝の上でぎゅっと握っていた私の手を彼は優しく開かせて、お弁当箱みたいなものを乗せる。
恐る恐る蓋を開けた。
「え、唐揚げ?」
そこには美味しそうな唐揚げが詰まっていた。
ジューシーな匂いを醸し出して。
「そう、君にだけ」
私、甘いもの苦手なんて言ったっけ?可愛くないと思われたくなくて、みんなの前ではイヤな顔せずに食べてたはずなのにな。
「甘いもの、苦手でしょ?いつも食べる時、手ぎゅっと握ってるじゃん」
なんでそんなに、分かるの。
唖然と彼の目を見つめる。
「残念ながら全然気づいてなかったみたいだけど」
彼は肩を落として、ふふ、と笑う。
「俺、君のことが好きだよ」
甘ったるい言葉が鼓膜を揺らした。
「私も」
なんとか絞り出して彼に肩を寄せる。
甘ったるいのも、悪くないのかな。

2/13/2026, 11:20:48 PM