「学校遅刻しちゃう、急ごうっ!」
君に手を引かれる。足をもつれさせながら走る。風と踊っているみたいだ、と思う。
【風と踊って踊らされて】
「お母さんすっごい怒ってる、逃げようっ!」
君の背中越しに見る世界が好きだった。君が右、左と体を動かすのにぴったりついていけば、まるで世界の方が君に道を開けるみたいに、君のことを恐れているみたいに右に左に避けていくのだ。
「先生に捕まったら補習参加させられる、走ろうっ!」
君の背中越しに頬を撫でる風が好きだった。生ぬるい風とすれ違うとき、僕らも彼らの仲間であるような気分になれるのだ。
「上司に見つかったら残業命じられるよ、行こうっ!」
君の背中越しに届く声が好きだった。君が空間に置き去りにした声に直接頭を突っ込んでいるみたいで、お互い静止した状態で普通に会話するのでは聞けない声のような気がしたのだ。
「警察の人来ちゃうよ、進もうっ!」
びゅう、と風が鳴いた。追い風だ、と思った直後、ばきりと嫌な音。風に翻弄されていた木の枝がとうとう折れて、僕の足元まで流れてきたのだ。
「朝になっちゃうよ、急ごうっ!」
差し出された君の手を取った。
5/1/2025, 1:10:50 PM