えむ

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『さて、“テネブル”と言ったカい?』

能力名“Eternal 6 o'clock”
能力範囲内に入った者を強制的にティーパーティーに参加させる力
白いクロスがかかった長方形のテーブルには色とりどりのお菓子が並びどれも食べやすいフィンガーサイズ
そしてふわふわと浮かぶ様々なティーポットと目の前に置かれた皿に乗ったカップ

《マズ ハ コノ コウソク ヲ トカナイカ?ハット・フィル・ター。》
『その前に好きな紅茶や珈琲の種類でも言って欲しいネ。ティーパーティーに必要なのは好きな飲み物と美味しいお菓子、そシて団欒だ。』
《……コウチャ コーヒー ノマナイ。》
『なラ、オススメは“ディンブラ”だナ。初心者でも飲みやすいフルーティーな香りだが紅茶というものを味わうに相応シい。』
《…ディンブラ…。》

淡々とした会話をしてからティーポットがふわふわとテネブルに近づき眼前に置かれたカップに注がれていく
テネブルにしては人型を保ち知能を持ってるソレは拘束を解かれても即座に攻撃せずに静かに紅茶を口と思わしき部位に近づけ飲む

《ウマイ。》
『そうだろう?味に飽きたらミルクを入れるのもイイ。熱いのが苦手なようには見えないガ、アイスで飲むのもイイぞ。』
《ハット・フィル・ター。ナゼ ドウワ ニ トラワレル。》
『囚われてるつもりなどサラサラ無い。ワタシはティーパーティーが楽しく出来レばイイだけだ。』
《テネブル?デモ ティーパーティー ハ カノウ ダゾ。》
『ソレは素晴らしいナ。ついでにお菓子もどうだ?シフォンケーキにフィナンシェ、甘みが苦手ならビターチョコレートもイイ。ミルフィーユにマカロンもあルぞ?』

テネブルという存在は童話を取り込みたいからこそ、知能がある奴はこうして対話可能な存在に語りかける事もある
時には誘惑、時には脅迫…手段は厭わない

《ウマイ。》
『あぁ、ディンブラという紅茶はそういうお菓子とよく合うかラな。』
《ハット・フィル・ター。オマエ ハ コチラ ニ イル ホウ ガ タノシイ。》
『ワタシは何処に居ても楽しめル。だがテネブル、キミ達の中でも知能が低いモノは攻撃的で厄介だ。ティーパーティーに“Brawl”は必要ない。』
《…ソウカ…。》

何処か寂しげな声で紅茶を飲みお菓子をつまむテネブルはパッと見温厚に見える
だがテネブルはあくまで“童話を破壊し取り込む”存在だ
いくらHat・Fill・Terと仲良しこよししたとしても他が処分する事には変わりない

『テネブル、キミに出来る事はワタシとこの時間を楽シむ事だ。イイ思い出にはなル。』
《ハット・フィル・ター。オマエ ハ ホカ ノ ヤツ ト チガウ。》
『自己紹介通リだ。ワタシは“イカれ帽子屋”と呼ばレル事もあル。他の子達とは違うさ。』
《サビシイ ダロウ?》
『ソレはキミもそうじゃないのかい?』
《ナゼ ソウ オモウ。》
『キミは経験というものが少ない。だからこそ全てが新鮮に感じルだろう。紅茶もお菓子もテネブルには無い。』
《……。》
『そんなキミが紅茶を飲んでお菓子を食べて美味しいと感じるのであレば、ソレは“楽しい”と言ってもイイんじゃないカ?』

テネブルは何も返さない
何も返さないがオススメされた別のお菓子を黒く染まった手でつまみ食べる

『テネブル、破壊も取り込む事もキミ達にとっては当たり前の行動だ。だがワタシはこの“世界(童話)”に生まれ生きていル。そこに居ルのが“当たり前”だかラだ。』
《ダカラ オマエ ハ コチラ ニ コナイ ノ カ。》
『そうだ。お互いがお互いの“当たり前”を生きてル。だかラこそ相容レない。』
《テネブル ト ドウワ ノ モノ ハ アイイレナイ。》
『だが、ティーパーティーは楽しめル。ティーパーティーはウサギもネズミもネコも人間も大歓迎だかラだ。無論、そこにはキミも含まれル。』

テネブルの黒い体がブルブルと震える
そこに怒りが有るのか悲しみが有るのかなんてHat・Fill・Terには関係ない
目の前に居る黒い存在はティーパーティーを楽しんでいる
その事実だけでHat・Fill・Terには充分だからだ

『紅茶のおかわりはいルかい?』
《…ホシイ。》
『じゃあ次は“ダージリン”とかどうカな?有名なものだが芳醇な香りと渋い味は至高だぞ。和菓子によく合うからどら焼きとかどうかな?餡子がイイんだヨ。』
《ドラヤキ…。》
『渋い味には甘いものがイイ。渋い人生に甘みが加わると最高と思えルように。』
《…ジンセイ…。》
『キミ達にもキミ達の生き方があル。生き方があるならソレは“人生”と呼んでイイ。“人”に囚われる必要はナい。』

新たな皿とカップがふわふわとテネブルの前に置かれ、ダージリンが注がれる
静かにソレを味わい、どら焼きと言われたものを教えて貰ってから食べ合わせた
美味いという事もなく紅茶を飲んで再度どら焼きを食べる

『その組み合わせが“好き”カい?』
《…スキ…シラナイ。》
『夢中になれるものを“好き”と呼ぶ。童話の者もソレを生み出す者も、言葉を忘れて貪るように動くのなら全てが“好き”と判断できる。』
《ハット・フィル・ター ハ コトバ ヲ ヨク ツカウ。》
『ティーパーティーに言葉は必須だカラな。お喋りもティーパーティーの1つなんだよ。だからワタシは沢山喋ル。』
《ハット・フィル・ター ガ クレバ テネブル モ カワル。》
『そんな大層なものじゃナい。何よリ、ティーパーティーは特定の誰かのものじゃないかラな。』

Hat・Fill・Terはティーパーティーを楽しめればソレで良いのだ
その信念は何処に居ようと変わらない
今の状況でもテネブルや他の人と対等にティーパーティーは出来る
だがテネブルに犯されれば他の童話の者達とティーパーティーを楽しめない
だから今の状況を好んでるだけだ

《ハット・フィル・ター。》
『なんだい?』
《オォ゙マエ゙ コゴチラ゙ニニ゙ニ……。 》
『〜♩〜♪』

知能のあるテネブルはこうして対話可能な存在に語りかける事もある
時には誘惑、時には脅迫…“手段は厭わない”
Hat・Fill・Terは唐突にキラキラコウモリを歌い出した

《コヂラ ニィイ゙ィ……。》
『Why is a raven like a writing desk?』
《ハッ゙ト・フィル゙・ター!!!》

テネブルは長いテーブルの対面に座るHat・Fill・Terを襲う為に這い上がり近づく
余裕綽々でその様子を眺めながらなぞなぞを出したが…

『不正解だ。』

その言葉と同時にテネブルはテーブルに倒れて動かなくなった
そしてボロボロと崩れて消失していく
まるで最初から存在しなかったかのように
Hat・Fill・Terだけになったティーパーティー
テーブルは散乱としており唯一の参加者の為に用意されたカップと皿は割れ、乗せられていたお菓子は潰れたり落ちてたりと散々だ

『楽しいティーパーティーは終わリだな。』

そう言って能力を解除してレユニオンへの帰路を辿る
お茶会の痕跡もテネブルの痕跡も何も無い
ただティーパーティーをしたという事実だけはHat・Fill・Terの中にあった
だがソレもいつかは忘れるだろう
あのテネブルが消失したように
忘れん坊の帽子屋は大切な事さえ忘れてしまうのだ




お題:終わらない問い


〜あとがき〜
童話の不思議の国のアリスから引用し、帽子屋モチーフの創作子を創りました
名前はHat・Fill・Ter(ハット・フィル・ター)です
元は男性でしたけど創作世界観の設定で魔法少女にもなれる創作子です

“テネブル”は童話を破壊して取り込む存在です
“レユニオン”はテネブルに犯された童話から逃げてきた童話の登場人物が来る場所です(稀に普通の人間も来るとか?)
レユニオンに来ると皆魔法少女になれるという世界観なのでHat・Fill・Terは男性ですけど魔法少女になってテネブルと戦う(?)時があります
彼にとっては戦うというよりティーパーティーですが…

答えのないなぞなぞとして有名な“机とカラスはなぜ似てる?”というものですが
原作に答えはありません、作者が答えを出した事はありますが原作に無いのならば“分からない”が正解です
不正解ならば命を奪われ、正解ならばティーパーティーは続きます

コレは終わらない問いです
ティーパーティーが終わらない問いです

…あ、Hat・Fill・Terが気分次第でティーパーティー終わらせる時もあります
問いでティーパーティーが終わらないだけです
安心してください
永遠の6時ですが

10/26/2025, 5:33:39 PM