手を繋いで
あのとき、貴方は、
手を繋いでくれましたね。
柔らかくて、暖かくて、
まるで、赦されたようでした。
貴方は、優しすぎました。
だから、私から、
少しずつ遠ざかっていくのが、
分かってしまったのです。
優しい人は、残酷です。
そういう風に出来ているのです。
貴方には、私の隣で、
私だけを見ていて欲しかったのです。
初めは…それだけだったのです。
なのに、
貴方の視線が、
他の誰かを捉える度に、
胸の中で、何かが蠢いて、
私は、視界に映る全てを、
壊してしまいたくなったのです。
貴方がくれた言葉を、
抱き締めながら、
一人で眠る夜は、
もう限界でした。
夢の中の貴方は、
優しすぎて。
でも現実は、
冷たすぎて。
貴方が傍にいない朝は、
凍えるように寒いのです。
あの日、貴方は、
世の中の不条理と人の悪意に、
傷付けられ、踏み付けられ、
汚れた襤褸切れの様な私を、
助けてくれました。
私にとっては、貴方の救いが、
世界の全てでした。
だから。
私の生きる意味は、
貴方、ただ一人なのです。
けれど、
貴方にとっての私は、
何だったのでしょうか。
私の心は、貴方で埋め尽くされ、
もう、とっくに壊れていたのに。
だから、最後に。
ひとつだけお願いです。
手を繋いで、ください。
私はもう、二度と、
貴方を離さないと誓いますから。
そして。
神でも、悪魔でも、
私たちを引き離せない場所へ、
行きましょう。
そして――
ふたりで一つの影になりましょう。
どうか、お願いです。
手を繋いでください。
――もうすぐ夜が来ます。
夜が明けることも、
月の昇ることさえ無い、
永遠みたいな夜が。
3/21/2025, 6:56:57 AM