〈君は今〉
「大人になったら、私、パパと結婚する」
――そんなことを昔言ってくれた娘から、結婚式の招待状が届いた。
どこか寂しさと嬉しさが混ざったような気持ちになる。
「あなたったら、相変わらずね」
と、お母さんに笑われてしまった。
そりゃあ、大切に大切に育てた娘が立派になった瞬間は本当に誇らしい。
けれど、まだここにいてほしいと思ってしまう気持ちも、やっぱり大きい。
改めて、結婚式のスピーチで何を話そうかと紙に書き出そうとする。
ペンを走らせるたびに、君と過ごした日々を振り返っているようで、思わず微笑んでしまう。
反抗期の頃は、お母さんに泣きつくほど傷ついたこともあったな。
それでも高校の卒業式で、
「こんな俺と優しいお母さんに反抗しちゃってごめん」
と泣いた君の姿を、今も覚えている。
就職して一人暮らしをすると言い出したときは、正直すごく心配だった。
でも、うまくやっているみたいで安心した。
職場に「いい人がいる」と聞いたときは、さすがにお父さん、驚いたけどな。
そういえば、子どもの頃。
お母さんと「好きな人がいるの?」なんて話をしていたときでさえ、俺は少し驚いていた。
あのとき君は「大人になったら私、お父さんと結婚する!」なんて言っていたな。
でも、お父さんにはお母さんがいるからごめんな。
きっと結愛も、いい人を見つけるさ――
なんて言ったら、君に泣かれて、お母さんには怒られたっけ。
きっとあれは、お母さんの照れ隠しだったんだろう。
これから結愛は、きっといろいろなことにつまずくだろう。
嬉しいことも、悲しいことも、たくさん増えていくはずだ。
でも、その先には、きっとたくさんの幸せが待ってる。
改めて、結婚おめでとう。
書き終えた紙が、いつの間にか濡れていることに気づく。
「あぁ……だめだな。結婚式でうまく話せるかな」
そう口にすると、コーヒーを淹れてくれたお母さんが、そっとハンカチを差し出した。
「きっと、大丈夫ですよ」
その言葉に、俺は「そうだな」と返し、コーヒーを一口飲む。
君は――結愛は、今ごろ何をしているのだろう。
そんなことを、ふと心の中で思った。
2/26/2026, 1:42:17 PM