星の配置が悪いのか、バイオリズムが低調なのか、ここ最近の冴えないこと続きの冴えないことを、ご丁寧に一つずつほじくり返しながら、私は畳に寝転がって天井を眺めていた。
あれはこうだった、これはああだった、自ら傷口に塩を塗り込みながら、合間に天井の木材の模様を見て、あそこ人の顔に見えるなぁと感心するなんてことを飽きずに繰り返していたとき、玄関からノックする音が聞こえた。
起き上がって数歩でたどり着く玄関のドアを開けてみると、そこにはアイリーンが立っていた。
アイリーンは隣の部屋に住むイギリス人女性で、この近くの大学に通う留学生だ。
初めて廊下で顔を合わせたとき挨拶したのをきっかけに、ちょくちょく話すようになった。
話すようになったといっても、まだあまり日本語が話せないアイリーンと、義務教育に毛が生えた程度の英語力しかない私とでは、流暢な会話は成立しなかったが、その分お互いの言うことを理解しようと心を尽くしたので何とかなっていた。…と思う。
アイリーンはいつも薄いブルーの瞳をキラキラさせて、英語と日本語をごっちゃにしながら、楽しいことも悲しいことも表情豊かに全力で話してくれた。
そんなふうに全力で自分に何かを伝えようとしてくれる人がいることを、私はとてもありがたく感じていた。
ドアを開けた私が鬱々とした表情をダダ漏れさせているのを見て、一瞬アイリーンはきょとんとした表情を見せたが、すぐに立て直し、「Hi、ゲンキ?」と朗らかに尋ねた。
まぁひとまず体は元気だと心の中で言いわけしながら、「うん、元気」と私は答えた。
その言葉が真実でないことは二人ともわかっていたが、それ以上追究はしなかった。
Ummと小声で言いながら差し出したアイリーンの右手には、オレンジ色のガーベラが一輪握られていた。
「…Flower」
アイリーンは「花」という日本語が思い出せないようで、そう呟いたあと、私の目を見た。
「ああ、お花?」
私がそう言うと、スッキリした表情になり、
「Yes、オハナ!」
とうれしそうに何度も頷いた。そして、ガーベラを私の手に握らせ、
「タノシンデ!」
と言うと、にっこり笑って風のように去って行った。
「(お花を)楽しんで」とアイリーンは言ってくれたのだが、今の私には「(人生を)楽しんで」と言われたように思え、手の中のガーベラは太陽のように見えた。
ひとまず太陽は枯らしちゃいけない、私は棚を覗いて花瓶がわりになりそうなものを探した。
4/8/2025, 4:23:33 AM