片桐椿

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 その衝撃は、存外私にとってはなんでもなくて、想定したほどの痛みは受けなかった。ただ視界の端にあの人を捉えたというだけで、その事実を冷静に受け止めることができた。

 今にして思えば、朝には消えてしまうような淡いそれは、きっと初恋だったのだ。私と彼は同じ高校に通っていて、些細なきっかけでよく話す仲になった。あの頃の私達が何を話していたのか、何を見て、何を美しいと感じていたのかも、思い出すことができないし思い出そうとも思わない。それでもかつての私が今よりも純粋に恋を信じていたことは確かだった。
 終わりは彼のメッセージからだった。何行にも連なったそれは目を通すだけで身が焼き爛れてしまうようで、半分も内容がわからなかった。それでももう先はないということだけは理解できて、無理をして何でもないように返答をしたことを覚えている。

 しばらくは彼と遭遇しないようにしていた。高校の同窓会だって、仲のいい友人との集まりだって、彼に会う可能性がある限りは参加しないようにした。未練があった訳ではない。それでもどうしようもないやるせなさに勝てるほど私は強くない。だから逃げ続けていた。

 数年が経って、ようやく心境の変化が訪れた。特に理由もきっかけもないが、今ならばきっと大丈夫だと思えた。

 友人達がまた集まるらしいと聞いた。生憎私は当日予定があったが、そこに彼の人も行くようだった。予定までは時間もあったので、少しだけ様子を見に行くことにした。幸か不幸か、友人達が集まる駅は私の目的地の中間地点だった。

 少し早く構内に着いた。物陰から様子を伺うと、どうやら何人か既に着いていて、話をしているところだった。息を殺して暫く待つ。あの人は姿を見せなくて、そういえば当時もいつも私が先に待っていたことを思い出した。諦めて私自身の集合場所を目指そうとした時に、遠く先にあの人がいた。向こうは私には気づいていないようだった。最後に見たままの姿で、どうしようもなく感情が乱された。あえて話すようなこともないし、今更どうする訳でもないけれど。遠くなっていくその背中に、また会いましょうと呟いた。

/きっとその日は来ないだろうけれど。

お題:また会いましょう

11/13/2023, 1:23:58 PM