お題 ありがとう
【そんな言葉を伝えたかった。その人のことを思い浮かべて、言葉を綴ってみて。】
突然だけどわたし、中学まで死ぬほど太ってたの。
冴えない見事なドスコイ体型。
スクールカーストは最下位だったけど
小馬鹿にされようが、嘲笑われようが
どうせ事実だから、なるべく場所を取らないように背中を丸めて、誰とも目が合わないように下ばかり見ていた。
でも、中2のとき私の前の席で、次の授業について話しかけてきた酒屋の息子に突然言われたの。
『笑ってる顔、可愛いと思う』って。
お洒落や恋愛で盛り上がるクラスメイトの中で
太った人、でしかない自分にむけられた言葉だとは到底思えなかった。
『うそでしょ?罰ゲーム?』
『本当。よく見ると可愛いよ』
耳まで真っ赤にしながら笑う酒屋の息子。
青天の霹靂とはまさにこのことで。
親以外の人間から初めて言われた『かわいい』は
わたしをただの太った人ではなく、
女の子として存在して良い、と認めて貰えたような気持ちにさせた。
そこから高校生になる前に20キロ近いダイエットをして
入学後、すぐ始めたバイトの給料で生まれて初めて床屋じゃない美容院へ行き
縮毛矯正をして、髪型を変え、メイクを覚えて、人生が変わった。
駅で会った中学の同級生に意地悪く大きい声で
『えー!人ってこんなに変わるんだぁ!』と叫ばれた事もあったけど、
『当然だろ』と思いながら、一瞥して視線を上げたまま堂々と駅構内の真ん中を歩けたのは、
間違いなく酒屋の息子の『可愛い』の言葉のおかげだった。
ありがとうと伝えたいと思っていたけど、迷ってるうちに月日は過ぎて、高校卒業から数年後、FBで彼がブラジルに移住したのを知った。
酒屋は今も健在で、彼そっくりの弟さんが継いでいる。
たまにその酒屋の前を通ると、今でも当時迷っていたことを少し後悔する。
死ぬ前にもう1度だけ、会えたらいいなぁ。
『あなたにとっては記憶に残ってない程どうでもいい事だったと思うけど、
私にとっては本当に大きな出来事だった。
可愛いって言ってくれて、ありがとう。
わたしもあなたのこと、ずっとかっこいいって思ってたよ』
5/3/2023, 1:54:49 PM