「最初から決まっていました」
紳士然とした若い男は優雅に微笑むと、傍らに抱えていた大きなバラの花束を片手に持ち直す。
「私の伴侶となるべく人は貴方です」
ゆっくりとした足取りで一人の女性の前に立った若者は、戸惑う彼女の前に堂々と跪く。
「どうか私の妻になっていただけませんか?」
バラの花束を差し出した若い紳士に、相手の女性はおずおずと視線を向け、躊躇いがちに口を開いた。
「あの・・・・・・、私と貴方は今日初めてお会いし、会話をしたばかりです。お付き合いをするくらいならともかく、貴方みたいなお方が私のような者に結婚の約束をするのはいささか早計なのでは・・・・・・?」
若者は俯きかけていた顔をあげ、にっこりと満面の笑みを浮かべた。
「貴方を一目見て、私の心は決まりました。貴方から見れば私の判断はまるで一瞬の出来事のように感じられるでしょうが、ここに至るまで私の頭脳は目まぐるしいほど途方もない演算を繰り返し、そしてようやく辿り着いた結果なのであります」
こうして人類史上稀に見るほどの天才と謳われた資産家は、彼にとっては永遠とも思えるくらいの長い数分を経て、後に語られる一世一代のプロポーズを果たしたのである。
【最初から決まってた】
8/8/2023, 7:48:08 AM