昨日の雨が嘘みたいに思える日だった。
その日は朝から気温がぐんぐん上昇し、今年初の真夏日を記録したとニュースで伝えていた。
そんな嬉しくもない情報をスマホで入手し、はぁ、と重いため息を吐く。
ワイシャツが汗で張り付いて酷く不快だった。
腕に持った濃い色のジャケットもまるで熱を帯びているかのようだ。
噴き出す汗を雑に拭いながら、公園を横切る。
子供連れの若い母親が、くたびれて重い足取りの私に不審そうな目を向けてきた。
ジロリとその目を見返して、大きな木のそばにあるベンチに腰かける。鞄からペットボトルを取り出すと、すっかりぬるくなった水を思いきり飲み干した。
ようやく人心地ついた気がして、空を見上げる。
憎たらしいくらいの真っ青な空だった。
ふと、視界の隅に何かが煌めいているのに気付く。
「·····」
少し離れた先にある水たまりに青い空が映っていた。
水たまりの縁が太陽の光を受けて輝いている。煌めきの正体はこれなのだろう。その、大人の私でも大股で渡らなければならないであろう少し大きな水たまりは、青い空を映して静かに佇んでいる。
あと数時間もすればすっかり乾いて消えてしまうであろうそこに、鳥が横切っていくのが見えた。
熱に浮かされた私の頭に、小さな世界に閉じ込められた鳥のあまりに寂しい末路がよぎる。
――ただの幻。
分かりきったことなのに、それが何故かおかしくて私は空のペットボトルを持ったままいつまでも笑っていた。
END
「水たまりに映る空」
6/5/2025, 4:06:36 PM