54あなたがいたから
ぎゅっと圧縮されたような、濃い青春がそこにあった。
夏だ。真夏だ。甲子園だ。
私は甲子園球場の警備員で、通用門を常に守っている。
勝ったチームも負けたチームも、基本的にはここをくぐって駐車場からバスに乗り、そして宿泊先や地元へ帰る。
お前のおかげで投げられたよと捕手に言う投手。
先生のおかげで勝てましたと監督に言う選手。
応援団やマネージャーの存在がありがたかったと口にしつつ去っていくものもある。
どんなに優れた選手であっても、自分だけで戦っているというわけではない。
私は周囲に目を配りつつ立っているだけだが、やはりこうした場面は涙腺にきてしまう。
「おつかれさまっす」
そして時折、警備の私にこうして声をかけてくれる選手もいる。
私は通用門を守っているので試合を見ていないが、場の空気からして、おそらく彼のチームは負けたのだろう。
彼が三年生だとしたら、もう二度と、甲子園球児としてここには戻れない。
それでも最後に、私に声をかけてくれたのだ。
小さく頭を下げて、彼を見送る。
そしてまた気を引き締めて、警備に戻る。
夏はそうして過ぎていく。大会はあと数日、残っている。
6/21/2023, 9:44:14 AM