香草

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「君だけのメロディ」

固い空気が肌を刺す。
緊張感を少しでもほぐそうと指揮台に立った先生が笑顔を向ける。
しかし安心したのも束の間。指揮棒に神経を集中させる。心臓が止まるような一瞬の静寂。
指揮棒が振り下ろされ、お腹に溜めた空気が丁寧に吐き出される。最初はフォルテ、この曲は主に怒りを表現している。
重厚な音圧で審査員の顔面を殴るような勢いで響きを増幅させる。
第72回高校生全国合唱コンクール。この日のために休日もすべて部活に捧げてきた。
この舞台に立っているのはコンクールのために選ばれた精鋭メンバーだ。
きっとステージから客席の表情まで見えないだろう。私は静かに涙を落とした。

この国では小学生から合唱に触れる機会が多い。
他の人と声を合わせる楽しみ。まるで自分の口から何層もの美しい声が出ているような感覚になれる。
そのためか、ずっと合唱部に憧れがあった。特に高音が美しい女声合唱団に。
だからこの女子校を選び、合唱部に入部したのだ。
青春の全てをここに捧げる。そう決心していた。
しかし入部後の最初のパート分けテストで、私だけ特別に顧問に呼び出された。
「あなた、かなりハスキーだと言われたことはない?」
「言われたことないですけど…」
「そうねえ。正直に言うとね、あなたはステージに立てないかもしれない」
先生が言うには、私の声は他の部員に溶け込まない声らしい。
どうしても変に悪目立ちをするらしく、曲の雰囲気を壊してしまう。
練習を楽しむだけなら入部していいというなんとも残酷な洗礼を受けた。

しかしここでへこたれるような私ではない。
誰よりも曲の理解を深め、表現力を鍛えた。いつかみんなと同じステージに立つことを夢見て。
どれだけ先輩に嫌な顔をされようと密かに応援してくれる同期だけが、私を勇気づけてくれていた。
でも何をしてもステージに立つことは許されなかった。未成年のくせに酒やタバコでもやって本当に喉を潰そうかなんて馬鹿なことを考えたりもした。
そんなとき、先生があるCDを持ってきたのだ。
「ステージに立ってみない?」
夢にまで見た言葉だった。
「やっとですか!」
「んーまあ、コンクールじゃないんだけど」
先生が流したのはゴスペルだった。
「あなたの個性はここで生きると思う。今度ゴスペルの大会があるの。メンバーを集めて出てみたら?」

どれだけ叫んでもいい。
ゴスペルは魂の叫び。
私だけのメロディ。
私はコンクールで優勝した。

6/14/2025, 12:43:50 PM