せつか

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いつもいつも、笑っていた。
曖昧にえへへ、とかあはは、とか適当な笑い方で応えて誤魔化した。愛想笑いと作り笑いが得意になった。
軽く頭を下げて、微かに眉を寄せて、あははと笑って、「そうですかぁ?」と応える。
そうすれば相手は自分の言葉が場を盛り上げて、上手くコミュニケーション取れたと思っている。
そうすれば、その場はそれで丸く収まる。

何にも気付いてない。
自分の言葉にどれだけ棘があるのか。
放った言葉の矢にどれほどの毒があるのか。

自分の言葉で相手がどれだけ傷付いたか、疲弊したかが分かっていない。
こちらは日常を守る為に、自分を保つ為に、そんな棘に、そんな毒に何気ないふりをしてやり過ごしている。たった一本の棘、たった一滴の毒で人は死ぬというのに。言葉に含まれる棘と毒は、かくも軽視される。

「仏の顔も三度、って知ってますか?」
「はぁ?」
「なに言ってんの?」

ほら、ね。
何にも分かってない。
だからもう、笑うのやめました。


END


「何気ないふり」

3/30/2024, 3:52:43 PM