田中 うろこ

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『ありがとうとごめんね』


ありがとう。そうやってお前はいつも言う。礼を言うのはこっちの方なのにな。お前は、不器用な俺の代わりにみんなを守ってくれる。庇ってくれる。いつも世話になってる。俺はただ、目の前にいるやつをぶっ飛ばしてるだけ。それなのに。
「いつもお疲れ様、ジュースいる?」
「……お前にはジュースの1本だって端金か」
こいつは優しすぎる。皮膚をもう一枚へだててその上から掻き毟られるような、むず痒いような気分になる。
「そうだけど、きっと俺が貧乏になっても差し入れはし続けると思うなあ」
ひょうひょうと言いのける。やっぱり俺は、こいつにだけは敵わないらしい。
「ありがとうな、」


あの人は絶対に謝らない。いや、謝って来ることはある。けど大体が生返事。
『あ、また壊れた、悪ぃ』
『あ? それ食っちまった! スマンスマン』
『あはは、ごめんて』
まあ、いつもお世話になってるし、なぜか手柄がこっちに回ってくるおかげでお金には困らないから、気にはしないんだけど。
「……ごめん」
ある日、突然現れて、謝って去っていった。月のよく見える晩に、ベランダの手すりの上で裾をはためかせて。どこかに消えていった。夜にトイレに行きたくなって起きた時に居たものだから、悪い夢かもしれない。何せ、翌日は普通に一緒に遊びに行ったから。


「ありがとう、ごめん。俺、お前がいないと生きていけないってわかったんだ。だけど、お前が好きなのは女だし、リアルなんてもってのほかだよな。分かってる。だから、一瞬だけ、そばにいることを許してほしい。俺が、俺がお前を全部守るから。俺の前だけで笑ってほしい。」
「…………水飲みすぎたかなあ」
「!」
「あれ、なんでこんなところに?」
「ごめん、ごめん!」
「こんな時間に会えるなんて、嬉しいなあ。ありがとう、来てくれて。」
「…………っ!」
「行っちゃった……いっけね!トイレトイレ!」

12/8/2024, 11:57:24 AM