ほろ

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「次は珊瑚の丘、珊瑚の丘」
車掌さんの声で、わたしは目を覚ました。気付かないうちに寝てしまっていたみたいだ。
海底列車の中は静まり返っている。今日の波はとても穏やかで、時折深海魚が窓の外を優雅に泳いでいく。
ゆるやかに停まった列車は、乗降者がいないのを確認すると再び走り出した。

珊瑚の丘を過ぎると、海底列車は浮上を始める。海底列車、とは大昔の海の神様が付けた名前で、今は海底以外も回っている。次に向かうのは竜宮城前だ。
派手なお城の前で列車は停止する。ここは乗降者が多いから、停車時間は十五分。ぼんやりお城を眺めて、タイやヒラメが乗り込んでくるのを尻目に欠伸をひとつ。
ようやく十五分。列車はまた動き出した。

次に向かうのが、わたしの目的地。海上交差島。完全に海から列車が顔を出し、人間界の島に停める。
この時のために、わたしは列車に乗ってここまで来た。ザァァッ、と水音がして、列車が海上に出た。わたしは、人間になる薬を握りしめて列車を降りる。
「よし。絶対幸せになるぞ」
昔、泡になったお姫様のようにはならない。この誰も来ない孤島で、まず人間の生き方に慣れる。

わたしは、人間になる薬を一気に飲み干した。

2/29/2024, 1:55:55 PM