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『喪失感』

 君を失って数日、未だに胸にはぽっかりと穴が空いたような喪失感を覚えている。
 あの時、オレが躊躇わずに師の胸を貫いていれば、或いは師の攻撃をオレが避けなければ、君が死ぬことはなかったかもしれない。だが何度後悔しようと過去を変えることはできず、君が側にいない事実だけが突きつけられた。
 独りでいると、オレの胸に空いた穴にじわじわと、黒い霧のようなものが染み込んでくるのが感じられた。
 オレが倒した師が死の間際に遺した真実。それはオレの精神を苛み、暗い影を落とした。このオレの体に流れる血――いや、オレだけでなくあの屋敷にいた同世代の子供たち、実の弟も含むその全てに、忌まわしき悪魔の血が流れているということ。証拠はないが師の言葉には不思議な確信があり、オレはそれを荒唐無稽な出鱈目だと笑い飛ばすことはできなかった。
 いつしかオレは、この世から悪魔の血を一掃することが己の使命だと思うようになった。最強の聖衣を手にしたオレにはそれをするだけの力がある。オレの手足となって働く者たちもいる。
 やがてオレの胸の穴が黒く染まり切った日、オレは島を発った。この世の全てを憎悪し、この世から忌まわしき悪魔の血を一掃するために。それを成し遂げた時、オレもこの残酷な世界から消えて君に会いに行く。
 それまで、少しの間だけ待っていてくれ。

9/11/2023, 12:10:32 AM