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「今日、スーパーでお寿司とすき焼き弁当とカレーライスが安かったんだけどね…」

 ここまで聞いた僕は時間をかけてゆっくりと母の方を向いた。母がニヤニヤしながら続けた。

「何買ったと思う?」

 声からは、皮肉な響きが感じられる。僕は立ち上がり、母が置いたエコバッグを食い入るように凝視してみたが外側からは判断できない。そこで、自分が今食べたいものを言ってみた。

「そば」

 母がケラケラと声をたてて笑った。僕は肩をすくめながら腹のなかでこう思った。

(違うのか、でもさっきの3つではないのが何となくわかる…)

 母の顔は、どことなく余裕を感じると同時に挑戦的だった。正解できないと踏んだ僕はあきらめてバッグの中に手を突っ込み中身を漁ってみた。
 中には雑貨屋にでも行っていたのか、洗剤や掃除用具でいっぱいだった。僕はつい鼻孔を膨らませ、ぐっとこぶしを握ってしまった。

「今から行くから、食べたいものを言って!」

 母の声が弾んでいるのを感じた。

4/2/2023, 2:26:19 AM