何もいらない
「さぁ、今日は何をしようか?」
僕は動かない人形に今日も問いかける。
僕たちの周囲には、積み木や車のおもちゃ、テディーベアにクレヨンが散らばっている。
「そうだ、今日は新しいおもちゃを持ってきたんだよ。見たいかい?」
返事を待たずに、僕はカバンからあるものを取りだした。
きらりと光るそれは僕の見開いた目をカッと映し出した。
「僕はね、本当に何も持ってないんだ。本当は。」
目を伏せながらぽつりぽつり話し始める男を、人形は生気のない目で見つめている。
「だから僕は、君のために何かあげられるものはないかって、ずっとずっと探していたんだ。」
彼は深く息を吸い込んで言った。
「どんなおもちゃも君に捧げるに値しない!何か君に支える能力も才能さえも持っていない!君をもてなすためにパーティーを開こうとしたって友人の一人だっていない!」
彼は引き攣った笑いで続けた。
「だから思ったんだ。僕の命を、君に捧げようって。」
男は妖しく光るそれを、人形に突き刺して狂ったように笑った。
「僕の命はね、君自身だよ。僕は君が居なきゃ生きていけないんだからさ、当たり前だよね?君もわかってただろ?」
「僕はね、君以外は何もいらない…。」
「僕はこれでやっと、無価値な命を終わらせられるんだ。今まで僕を生かしてくれて、ありがとう。」
男は涙を流しながら、人形から引き抜いたそれを自分の身体に沈めた。
「愛する君をずっと縛り付けていた罰を、やっと受けられた……不思議と今、心地いいんだ……」
「いつか、本当に、君に、何かを捧げられる人に、生まれ変われたら……なんて素敵だろう、ね……」
沢山のおもちゃに囲まれて目を閉じた2人は、身を寄せ合うようにして眠りについた。
4/21/2024, 4:14:51 AM