いろ

Open App

【あなたに届けたい】

 慣れた急坂の階段を一段飛ばしに上がっていく。このあたりは坂ばかりで、自転車もロクに使えない。仕事を始めた頃は息が切れていたけれど、いつのまにか丘の一番上にあるお屋敷まで駆け上がったって問題ないだけの体力が身についていた。
 それなりに良い大学は出たし、それなりに才能にも環境にも恵まれたほうだったと思う。この仕事を選んだときには周囲にたいそう驚かれた。もっと大企業に就職しなさいと遠回しに薦められもした。だけどそれでも。
「お届け物です!」
 配達先のお宅のドアノックを鳴らし、渡すべき小包みを手にドアが開く時を待つ。この瞬間が僕は大好きだ。
 誰かの贈る『想い』をあなたに届けたい――だから僕は、配達人(この仕事)をしている。

1/30/2024, 9:53:01 PM