彼は中2の夏に転校してきた。
伏せる瞼にどこか影のある真っ白な美少年で、女子も男子も彼にドキドキしていた。
半袖からのびる腕には、大きな傷跡があった。
赤黒いそれは生まれつきのようにも、何かひどい事故にあったかのようにもみえて、誰も彼のそれに触れることはなかったのだ。
隣の席だった私が、思わず聞いてしまうまでは。
「その傷、どうしたの?」
彼は、その綺麗な顔をこちらに向けることなく、淡々と話した。
「昔、猫を殺したんだ。」
窓にはりつく蝉が、私の耳を蝕むようにけたたましく鳴いていた。
「それからこの傷ができた。どんどん大きくなっている。もう隠すことも諦めた。」
彼はそれから、数ヵ月もたたないうちにまた転校してしまった。私はしばらく、半袖姿の彼が目に焼きついたままでいた。
今でも夏がくると、あの猫の目の形のような、おぞましい傷痕を思い出してしまう。
5/29/2023, 10:11:39 AM