三つ葉の群集の隣に咲いた青い花は、どんな香りだったか。花の中心からまっすぐと伸びる藍の色は はっきりと目の奥に焼き付いているというのに、記憶の中の嗅覚は意味を成さないようだ。
先日の事になるが、久しぶりに里帰りをして、ふらりと家の裏手にある野草の群生地へと足を運んだ事があった。記憶のそれよりも随分と狭く思えた思い出の場所は、何ら変わらない様子でそこに残っている。それが随分と懐かしく思えて、三つ葉の辺りをちらりと見てみれば、名も知らぬ青い花が一輪、風に吹かれて揺れた。
何十年ぶりに見たその花は、かつてよりも繊細な色持ちで可愛らしくその花弁を風に遊ばせていた。何気なしにじっと見つめていれば、どうやら青と一言に括りつけるには惜しい色をしていると感じる。透き通った藍の色を、雪の上に流した様な淡い色。その様が何となくカワセミの羽に似ているような気がして、この花の色をかわせみ色と名付けてみた。
風に乗って届いた香りは、幼き日の故郷の匂いによく似ていた。
5/9/2023, 1:43:38 PM